前回のスパイス小町では、母親が一人で子育てに励む某オムツメーカーのCM動画が、「『ワンオペ育児』を賛美しているのではないか」といった批判を浴び、炎上した一件を取り上げました。
その後、東大の五月祭で、エッセイストの小島慶子さんたちと「第1回メディアと表現について考えるシンポジウム 『これってなんで炎上したの?』『このネタ、笑っていいの?』」を開催しました。「スパイス小町」を読んで来場された方も多数いらっしゃり、本当にありがとうございました。
CMの作り手が受け手の変化に気付いていない?
このシンポジウムでも、炎上したCMについて議論されました。そこで出席者たちが強調したのは、「対話」の重要性です。CMを制作したオムツメーカーによると、炎上した後も「あえて動画を削除せず、ご意見を受け止める」という方針だったそうです。炎上したら「はい謝罪!」「はい削除!」ではなく、CMで何を訴えたかったのか、何が問題だったのかを、批判的に捉えた人たちときちんと「対話」することが大事だということでしょう。
このオムツメーカーに限らず、CMの表現を巡って炎上してしまうケースが後を絶ちませんが、これには「作り手が受け手の変化に気がついていないのでは?」という重要な指摘もありました。両者が対話をする場があれば、受け手の変化にも気が付くことができるかもしれません。それでは、その「対話の場」とはどこなのでしょうか? インターネットは対話の場になり得るのでしょうか?
「ワンオペ育児はつらい」に理解は進んだ?
掲示板サイトの「発言小町」はまさに、ネットを通じた対話の場です。ここでは「ワンオペ育児」がどう受け止められているのか、最近の投稿を見てみたところ、「育児の大変さについて旦那からの理解がほしい」というタイトルのトピを見つけました。
「実家は遠方、旦那は朝から夜遅くまで仕事、義母は近くに住んでいますが仕事をしている為、ワンオペ育児をしている」というトピ主さん。生後11か月のお子さんが熱を出し、治ったかと思ったら、夜に遊ぶ癖がついてしまって、トピ主さんは大変な寝不足に。ある日、息抜きに外出し、旦那さんに電話をして「今晩は弁当を買って帰るから」と言ったら、ブチ切れられたそうです。
「週に2日は必ず出来合いのご飯だった。今日はただ遊んでたんだよな? ずっと思ってたけど、専業主婦だからご飯作るのは当たり前だろ。俺だって働いてる」と怒鳴る旦那さん。これに対し、トピ主さんは「旦那の言い分も分かります。ただ、1か月以上、本気の寝不足でこちらもストレスが溜まり、遊んだ時にお弁当に頼ろうと思ったのが、そこまで怒鳴られることだったのか疑問です」と訴えています。
このトピにはたくさんのレスが集まりました。「あなたは、ご主人の仕事の大変さを理解してますか? 働く、って大変ですよ」という批判的なコメントもあれば、「この状況でしたら全面的にトピ主さんの肩をもちます。私ならぶちギレ、家事放棄してしまいそうです。旦那さま、なんて思いやりがない(すみません)。」と、トピ主さんに共感するコメントもあります。
このトピ主さん、専業主婦と思いきや、実は育休中で職場復帰前であることもわかりました。すると、「彼、あまり思いやりのない印象を受けるので、主さんが仕事を持っていることは、もしもの離婚に備えての保険にもなります」と、トピ主さんを励ますレスも寄せられました。
トピ主さんのその後の投稿によれば「別居→同居再開で関係修復を試みる→ちゃんとやってほしいことや気持ちを伝えたもののアクションなし→→あきらめて、もしもの離婚に備え資格取得などに意欲的(イマココ)」というところで終わっています。「ワンオペ→パパはゾンビ(死んだものと思おう)」に移行したというところでしょうか。
トピ主さんは「まだ小さい子を育てている時に離婚を考えた方はいますか? 離婚せずに3人でやっていくために、私はこれ以上どうしたら良いのか、本当に分かりません」という切実な相談で締めくくっていました。
まさに今の日本には、こういう夫婦が無数にいるのですから「ヤバイ」のです。
たぶん、5年前ぐらいの投稿なら、「ワンオペが辛い? 何いってんの? 甘い!」と炎上していたかもしれませんが、トピ主さんを応援するレスが多かったのは、世の中の空気が少々変わってきたからでしょうか。
もう一つ、紹介したいトピは「ワンオペ育児でも大丈夫?!」というもの。「今は必死でなんとか頑張っていますが、正直疲れています。もう1人子供を産んだら、しばらく専業主婦がしたいな……なんて思ってしまいます。『うちもそうだけど、大丈夫だよ!』『子供はちゃんと育つよ!』『休日に家族で過ごせば大丈夫!』という方はいらっしゃいますか?」と、トピ主さんは背中を押してくれるレスを期待していたようです。
ところが、「(ワンオペ育児は)珍しくないです」「共働きの場合、早く帰ってくる人間がワンオペになるのは当たり前。仕方ないです」などと、少々厳しいレスが目立ちます。結局のところトピ主さんは、こんな結論に至ったようです。「辛いと感じていましたが、皆さん当たり前にやっていることなんですよね。泣き言を言ってすみませんでした。あまりネガティブなことは考えすぎないよう、1日1日を頑張っていこうと思います」
一瞬で燃え上がり、忘れ去られるネットの対話
前述のシンポジウムに話を戻しましょう。対話の場としてのインターネットについて、ある研究者からこんな話が出ました。「インターネットの炎上は悪いことではないけれど、一瞬で燃え上がり、忘れ去られてしまう」
今やインターネットで誰もが発信者になれて、誰とでも対話ができるようになりました。でも、1980年代に「子連れ出勤」の是非を巡って巻き起こった「アグネス論争」のように、「長く語り継がれる対話」にはなりにくいのです。
こうしている間にも、新たな“炎上”が起き、それもまた、あっという間に忘れ去られてしまうかもしれません。それでも情報の送り手と受け手、批判する側とされる側の「対話」が重要なのは確かでしょう。
発言小町のトピはこちら↓
「育児の大変さについて旦那からの理解がほしい」
「ワンオペ育児でも大丈夫?!」