20年ほど前、東京・銀座の百貨店で須浪亨商店のイグサのカゴに出会った。手頃な値段で清々しいこのカゴに興味を持ち、岡山県倉敷市の製造元を早速、訪問した。
当時は、イグサに色をつけて模様編みにしたゴザの花筵作りが本業で、その傍ら、早世した4代目当主の母親、須浪栄さん(81)が短いイグサを縄にした「い縄」を専用の機で織り、カゴに仕上げていた。

「いかご」と呼ぶこのカゴは、目が粗くざっくりとした風合いで、風が通る清々しさがある。栄さんは「地元ではありふれすぎて売れないのよ」と言うが、自然の素材を生かしたおしゃれなアイテムにほれて、愛用していた。
その後、岡山のイグサ産業が廃れ、店は花筵作りをやめ、栄さんが細々とカゴを作り続けていた。「このカゴを作る人がいなくなるのではないか」と心配していたが、孫の隆貴さん(24)が5代目としてカゴ作りを継いだと聞き、先日久々に会いに行った。
子どもの頃から祖母を手伝っていた隆貴さんは「20歳の時にいかご作りを生業にしようと決意した」という。栄さんが使っていた機を直し、さらに縫製の仕方や、持ち手を改良した。20年前よりは値段は上がったが、丈夫でハリのある仕上がりになった。
カゴは、年月が経つと緑色が次第に色抜けして白くなり、気持ちのいい茶色に変わる。使い込むことによる素材の変化も楽しみたい。