なぜあのCM動画は炎上したのか?

スパイス小町

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 最近、新たな仕事が舞い込むようになりました。「炎上防止アドバイザー」とでもいうのでしょうか?

 主にテレビやCMなどの映像関連の方たちからなのですが、炎上しないようにするにはどうしたらいいかという相談を受けることが増えてきました。背景には「女性向けの商品を作っている会社のCMなどが続々炎上」――という“事件”があるから。

 記憶に新しいのは、化粧品「インテグレート」のCM。25歳の誕生日パーティーで「今日からあんたは女の子じゃない!」「もうチヤホヤされないし、褒めてもくれない」などという“現実”を知らされるという設定です。

 女性誌ではよく「そろそろ大人のオンナになろう」的な特集があるので、意図するところはわからなくもないのですが……「25歳からは女の子じゃない」というのは「年齢差別」とも言えます。

 ツイッターのまとめサイトでは「昭和か!」「若い女の価値は『カワイイ』しかないのか」という2大突っ込みがまとめられていました。ネットにアップされていた動画は削除されました。

 また、タンポン「ソフィー」の動画はもっと「謎」でした。男性から見た「彼女の生理の悩み」を紹介しているのですが、「デートの最中にトイレに頻繁に行かれるから寂しい」などの意見が。これには「男性のために生理用品を選ぶの?」などの疑問の声が聞かれました。

「炎上=価値観の違い」が表れる「子育て」「男女」

 掲示板サイト「発言小町」でも、よく読まれる(時には“炎上”する)のは……やっぱり「子育て」や「男女」の価値観が強く表れる投稿だと思います。先日、いっぱいレスが付いて目に留まったのは、「子連れに優しい目を向けてほしいです」というトピでした。

 「ベビーカー押して歩いていたら、前から歩きスマホのサラリーマン。ふらっとこちらに寄って来て(曲がるらしい)あわやぶつかりそうに。舌打ちされました。

 ベビーカーで空いている電車に乗った時、子供が騒がないように機嫌を取りながら隅っこに寄っていたのですが、若い女性数人にチラチラ見られ。『ベビーカーって畳まないの?』みたいな事を一人が言っていました」

 共感のレスがいっぱいつくのかな――と思ったら違いました。小町は女性が多くても多様な場。子どものいる人、いない人、独身、さまざまな人が読んでいます。

 「トピ主さんが周りの大人たちにあたたかく見守って欲しいと言うなら、トピ主さんが、無神経な母親に遭遇した時にしっかりと注意してください。周りの人に求める前に、同じ母親、同じ子連れという立場のトピ主さんが、厳重に注意すれば、世の中の人たちの見方は変わります」という厳しい意見もありました。

 「我慢できる大人が少なく、今の日本は子供を育てにくい社会です」とトピにはつづられています。子どもがいる人は子どもがいない人に優しく、そして子どもがいない人は子どもがいる人に優しく、双方向で「優しい社会」になるには、どうすればいいか、考えさせられました。

紙オムツCMの明暗、違いを分けたのは?

 本当に多様な価値観の中、炎上するのはどんなコンテンツでしょう? 最近わかりやすかったのは、ふたつの紙オムツのCMです。一つは炎上し、一つは大絶賛。いったい明暗をわけたものは何か?

 批判の声が多かった「ムーニー」のCMは、ひたすらつらい「ワンオペ育児」の母親を追いかけ、父親の出演はわずか数秒。ネット上には「辛かった時期を思い出し、吐き気が……」という意見もありました。

 一方の「パンパース」は「多様な人たちと多様な子育て」を前面に打ち出しています。人種も性別も立場もまったく違う多くの人たちが、子育てに関わる様子を描きます。お母さん、お父さん、おじさん、おばあちゃん、ペット、道路工事のおじさん、通りすがりの人まで……子どもを大切にして、笑顔にしたい、守りたいと願っている。「キミにいちばんのこと」というタイトルです。

 CMで“炎上”した会社も、とてもよい商品を作っています。決して動画を作る段階で女性が関わっていないというわけではないでしょう。キーワードは「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容と活用)」です。

 パンパースを手がける「P&Gジャパン」のスタニスラブ・ベセラ社長と対談したことがあります。P&Gは世界で展開する企業で、この言葉を大事にしています。例えば会議などにいくら女性がいても、その人が「意見を言えない」立場だったら意味がないということです。

 同社では、すべての事業はかならず「ダイバーシティーなチーム」で取り組むそうです。ヒゲそりの開発にも女性が加わりますし、生理用品にも男性が入ります。人種も年齢も性別もさまざまな人たちが一緒に仕事をすることがとても大事なのだと言っています。

 「ダイバーシティーはもうかりますか?」という失礼な質問をしてみました。彼は笑って「儲かりますよ。私がそう言ったって書いてください」と言いました。本当にその通りで、今回P&Gは大いにブランド価値を上げました。

 紙おむつのCMでは母を賛美するより、すべての子どもへの包括を、または逆にパパがワンオペ育児で奔走するCMを作ったほうがよかったかもしれません。

「母性賛美」にひそむわな、偏りに気づいていますか?

 では、女性に意見を言ってもらえば必ず炎上しないのか? そうでもありません。たぶんCMなら試写もしているでしょう。女性がいても「多様な女性がいるか」が重要です。

 女性がいても「働いているかいないか」「日本女性だけかどうか」「ワーママならパパに育児を分担してもらっているか」というところも重要です。

 日本人はちょっと過剰に「母性を賛美」する傾向にあります。ムーニーの動画も、一人で子育てを頑張るお母さんたちへの尊敬や応援したいという気持ちで作られたのでしょう。しかし、その過剰な母性賛美が「育児はお母さんにしかできない仕事」にしてきたという側面もあります。

 日本女性はただでさえ、全部自分で育児を引き受けてしまいがち。「夫は仕事で忙しいので、かわいそうで頼めない」「日曜日に子どもの世話をしてくれるから、何も言うことはない」と言います。

 だからこそ動画の結びは、「その時間がいつか宝物になる」という言葉ではなく、「じゃあ、自分たちはこのお母さんの辛い状況のために何ができるのか?」という未来への問いかけであってほしいのです。

 動画を作る現場は、制作会社、広告会社など、24時間稼働で伝統的に「男性優位」の世界です。だから現場にだけ任せておくのは、ちょっと危険。しかしクライアントの女性たちの側も、もしかしたら「育児は女性の仕事」と考えている人ばかりがそろっているかもしれません。

 もしかしたら「育児は女性の仕事」と考えている人も多いかもしれません。

 誰の中にも「偏った思い込み」はあり、昔はそれでもよかったものが時代の変化で違っているかもしれない。それに気づくことが大切です。むしろ「自分は偏見を持っていない」と思っている人ほど、困ります。ちょっとだけ立ち止まって「これは偏った思い込みかもしれない。誰かを傷つけているのでは?」と考えるだけでも、世界は違って見えてきます。

 5月20日に、エッセイスト・小島慶子さんたちと、こんなイベントをやります。

第1回メディアと表現について考えるシンポジウム 「これってなんで炎上したの?」「このネタ、笑っていいの?」 くわしくはこちら

 広告会社など制作者の立ち場にある人にもぜひ来てほしい。私は主に「地方自治体の動画とメディア」について発言します。ぜひ一緒に考えてみませんか?

白河桃子
白河桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

 相模女子大学客員教授、昭和女子大女性文化研究所客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザーズなどを経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「婚活時代」(山田昌弘共著)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(講談社新書)「女子と就活」(中公新書ラクレ)「産むと働くの教科書」(講談社)「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ポプラ新書)など。「仕事、出産、結婚、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。

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