都会に疲れたら祖父母の元へ「孫ターン」

古民家を改修したカフェで、客と談笑する坂口さん(右、富山県朝日町で)

 都市部の若い世代が祖父母のいる地方に移り住む動きが目立つ。故郷に戻る「Uターン」や古里以外の地へ移る「Iターン」になぞらえ、「孫ターン」と呼ばれる。自然豊かな地方暮らしに憧れるが、見知らぬ土地は不安という若者にとって、祖父母の住む地域は溶け込みやすく、魅力的に映るようだ。

自然豊かな地方暮らしに憧れ

 生まれも育ちも神奈川県茅ヶ崎市の中沢太朗さん(24)は4月、甲府盆地の北西部にある山梨県北杜ほくと市に移住した。同市の観光PRを担当する地域おこし協力隊として働く。

 同市は両親の出身地で、小さい頃から祖父母宅を訪れては、雄大な山々や高原など豊かな自然に魅せられていた。いつかはここで暮らしたいと考えながら、大学卒業後は神奈川県内の建設会社に就職したが、昨年8月に母方の祖父が死去。「いつか移住するなら、他の祖父母が元気なうちがいい」と移住を決断した。

同居する祖父母と談笑する中沢太朗さん(左)(山梨県北杜市で)

 会社員時代より収入は減ったが、「満員電車に乗らずに済み、残業も減った。暮らしは豊かになった気がする」と話す。同居する父方の祖父、中沢賢一さん(88)は「家がにぎやかになって楽しい」、祖母の今朝恵さん(84)も「力仕事を手伝ってくれて、とても助かっています」と喜ぶ。

 富山県朝日町で、古民家を改修した喫茶店「ヒュッゲ」を営む坂口直子さん(36)も、同町にいた祖父母の世話などのため、2007年に東京都江戸川区から移住した。「地域になじめるか、最初は不安だったが、周りは『坂口さんのお孫さん』と快く受け入れてくれた」と振り返る。近くの親戚や新しくできた友人にも支えられ、15年には夢だった喫茶店を出すことができたという。

住まいや仕事を探しやすい利点

 高度成長期に仕事を求めて都会に出ていった世代の子どもたちが、親とは別に、祖父母のいる地方に移住する。こうした現象を「孫ターン」と呼ぶのは、移住希望者への各種相談や情報提供を行うNPO法人、ふるさと回帰支援センター(東京)副事務局長の和雄さんだ。

 東日本大震災後、若い世代の地方移住相談が増え始めた時、祖父母のいる地域を移住先に選ぶケースが一定数あることに気づいた。「UターンでもIターンでもない新しい移住の形態と感じた」と話す。

 孫ターンに関する全国的なデータはない。ただ、移住者受け入れに積極的な山口県周防大島町が、15年度に転入してきた人に行った調査では、回答した116人のうち9人(8%)が孫ターンだった。

 嵩さんによると、都会の若い世代にとって、祖父母のいる地方は「不便な田舎」ではないという。優しい祖父母に迎えられ、自然の中で遊んだ楽しい思い出の場所として印象に残っていることが多い。

 移住に関心があっても、現地での仕事や住居、人間関係などが不安で、実行に移せない人もいる。だが、移住問題に詳しい明治大学教授の小田切徳美さん(農村政策論)は「孫ターンの場合、こうしたハードルが低くなる」と指摘する。祖父母が築いた人脈を生かして仕事や住まいを探したり、地域に溶け込んだりしやすいからだ。代々続く田畑などがあれば、それを継いで生計を立てることもできる。

 小田切さんは「孫ターンをきっかけに若い世代の移住や定住が進めば、地域が活性化し、孫以外の若者を呼び込む効果も期待できる。今後の移住政策の大きな柱になる可能性もある」と話す。(竹之内知宣)