レシートに担当者名 必要?

写真はイメージです

 SNS普及、個人の特定容易に

  スーパーなどで何げなく受け取るレシートに、レジ担当者のフルネームが記されていることがあるのにお気づきだろうか。最近、従業員の安全のため、この記載を見直す動きが出てきた。一方、名前を公開すべきだという考え方も根強く、当面は店によって対応が分かれそうだ。

 約2年前、インターネットの掲示板に「レシートにフルネームを載せるのはやめて」という投稿が寄せられた。投稿主の女性はスーパーでアルバイトをしていた時、レシートにフルネームが印字されていたため、見知らぬ男性から下の名前を呼ばれるなど不快な思いをしたという。昨年夏には別の掲示板に、名前を知られたことでストーカーの被害に遭ったという店員の書き込みもあった。

 レシートにレジの担当者名を記すのは、問題があった時の責任の所在を明らかにするなどの理由がある。店員のフルネームを記したレシートも多い。最近になって、働く店員が不安の声を上げるようになったのは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及が背景にある。

 NPO法人日本ネットワークセキュリティ協会の調査研究部会長、前田典彦さんは「インターネット検索などを使って、名前などから個人の属性やSNSのアカウントを特定できるようになった」と指摘する。店側が担当者を把握するためだけなら、識別番号を記載するだけで十分であり、「フルネームを記す必要があるか、考える時代に来ている」と前田さんは訴える。

 フルネームで表記してきたスーパーなどは徐々に見直しへ動いている。イトーヨーカ堂は昨年11月、レシートの担当者名を「漢字フルネーム」から「カタカナ名字のみ」に変更した。イオンリテールは担当者のフルネームを記しているが、番号や名字のみに変更を検討している。東急ハンズは、現在のフルネームから番号に変える予定だ。

 一方、百貨店など専門性や丁寧な対面販売が求められる場所では、担当者名を明確に記しているところが多い。理由については「客からの問い合わせに迅速に対応できる」(高島屋)、「信頼や安心感につながる。従業員も責任感を持って接客する」(三越伊勢丹ホールディングス)などが挙げられる。

 レシートに名前を表記するのは店員にとって悪いことばかりともいえない。逆に、最近になって担当者名の表示を充実させた店もある。

 メガネチェーンの「Zoff(ゾフ)」は昨年から名字のみだが、「測定」「会計」「加工」など各担当者名をレシートに表示するようになった。「誠意と責任を持って作っていることを示したい」と広報担当者。これがもとで、特定の店員名を挙げて、客から感謝のメールが寄せられたこともあった。メールに名前が挙げられた「Zoff Plus銀座コア店」(東京)の 呉春玲ごしゅんれいさん(29)は「励みになりました」と笑顔をみせる。

 経営コンサルタントで船井総合研究所の執行役員の岡聡さんは、「農産物を作った人の名前を公開するのと同じで、名前の公開がその商品の信頼を高める側面はある」と指摘する。ただし、「ストーカートラブルなど、レシートに書かれた名前を巡っては問題が多いのも事実だ。顔が見えなくてもやり取りが成立するようなスーパーやコンビニなどは表記の仕方を工夫してもいいのでは」と話している。

専門性、客との距離感考慮

 特定社会保険労務士、旭邦篤あさひくにあつさんの話 名前を公にすることで付加価値が高まる場合がある。高価な買い物の際も担当者名がわかったほうが安心だ。

 一方、2008年に施行された労働契約法で、労働者への「安全配慮義務」が明文化されたことで、労働者保護に関する企業の責任は大きくなっている。小売業や飲食業は人手不足が深刻で、最近は安心して働ける環境を重視する労働者も目立つ。レシートの名前表記を配慮することで人材確保につなげるという考え方もあろう。

 レシートに名前を記すかどうかは、店の専門性や顧客との距離感を考えて判断すべきだ。

「番号だけ」が多いコンビニ

 主要な店に、レシートにどう担当者名を記すかを聞いてみた。対応は店によって様々で、百貨店が一様にフルネームとは限らない。コンビニやファミリーレストランのレシートではフルネームは記さず、番号だけが記載されているものが多かった。番号だけにしている理由を聞くと、「情報化が進む現代社会において、個人情報を保護するため」という回答が多かった。

現実で隠しネットでさらす

◎取材を終えて 約10年前から小学生が登下校時に名札を着けないようになったことを思い出した。同様の現象が大人の世界でも広がり始めているのだろうか。しかし、本当に危険なのはSNSで名前や写真、日常の出来事を必要以上に公開することだ。名前で簡単に身元が割り出される一つの原因はそこにある。現実で名前を隠しながら、ネットの世界で何でもさらけ出すのは本末転倒ではないだろうか。(山村翠)