もう恋愛はいらない? みんなが「恋ダンス」を踊っている…

スパイス小町

『逃げるは恥だが役に立つ』©TBSテレビ

 最近ネットに投稿される動画の中に「恋ダンス」が多いと思っていましたが……。いつの間にか完コピで踊れる人が増えていますね! フィギュアスケートの羽生結弦選手が見事に踊る様子を織田信成さんが投稿して、すごく拡散していました。

 この「恋ダンス」は、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で、主演の新垣結衣さんや星野源さん、石田ゆり子さんらが主題歌『恋』に合わせて踊るもの。番組のエンディングで流れていましたが、TBSの公式YouTubeにアップされ、再生回数が爆発的に伸びております。

 完コピするには、かなり複雑なダンスだと思うのですが、今年の忘年会ではきっといっぱい踊る人がいるんだろうな。いつの間にか、周りには逃げ恥ブームが起こっていました。

「恋愛結婚は無理かも…」

 『逃げ恥』はじわじわと視聴率が伸びているヒットドラマで、主人公たちは“契約結婚”するというストーリー。先日NHKの番組「クローズアップ現代」でも「いきなり婚」として取り上げられていました。無駄に長い恋愛という「ロス」を除いて、「いきなり婚」をしたいという女性の心理を紹介しています。

 恋愛をすっ飛ばした「いきなり結婚」。私の授業で女子大生が「恋愛結婚は無理かも。『婚活』するしかない」と言っていたのですが、番組を見ながら「このことか!」とに落ちました。

 彼女たちは婚活を「恋愛しないで結婚できるツール」と思っているようです。しかし現実には婚活は「出会いのツール」であり、すれば必ず結婚できるというわけでも、感情の盛り上がりを省いて結婚できるというわけでもない。昭和時代には「お見合いか、恋愛結婚か」というカテゴリー分けがされていましたが、今後は「恋愛結婚か、婚活結婚か」という分け方ができるかもしれません。

 女性のなかには、「将来の安定のために夫に稼いでもらいたい」という人も、子どもが欲しくて結婚する人もいます。だから恋愛を抜きに、「安定+子ども」という、結婚の“機能”のみを求める女性がいても不思議ではないのです。ただ、問題は、恋愛抜きの結婚を目指すにしても、そもそも安定した収入を保証できる男性が少ないということなのですが。さらに「一緒に暮らしても不快じゃない」男性に出会うだけでも大変かもしれません。星野源さん演じる「平匡さん」は、そのあたりにたくさんいるわけではないので。

名作ドラマには名セリフがある

 そしてやはり、逃げ恥の主人公たちも「感情」とは無縁でいられない。契約関係だけで割り切れない男女のモヤモヤが……。新垣結衣さん演じる「みくり」に、お母さんが発したセリフも、「名言」としてたくさんSNSに投稿されています。

 「運命の相手なんていないわよ」「運命の相手にするの」

 これは平匡さんとの関係に悩み、家に帰ったみくりにお母さんが投げかける言葉。うわーさすがです。

 やっぱり人の共感を集めるドラマは、コンセプトやストーリー、キャスティングの良さだけでなく、圧倒的にセリフがいいんですね。前も『問題の多いレストラン』(2015年、フジテレビ)は名セリフだらけと思っていましたが、逃げ恥もドラマ史に残る「名言ドラマ」です。

 ドラマの忘れられないセリフがポンと心におちて、「あ、そうだったんだ」と楽になったりする。気づいたりする。逃げ恥とは別のドラマですが、セリフを真に受けるお母さんに悩む娘さんがトピを発言小町に立てていました。

 トピはこちら⇒テレビドラマの台詞を鵜のみにする母

 「高齢の母なのですが、私の記憶によると、テレビ(渡鬼)の台詞せりふで『今まで頑張って来たんだから、あとは子に任せれば良いのよ』だったか、それに類似した台詞だったと思うのですが(たまたま私も見ていました)、そのシーンを見聞きした直後から、全く料理をしなくなってしまったのです」

 仕方なくトピ主さまが料理を担当することになったのですが、彼女はぼやいています。

 「ドラマを真に受けるなんてアホらしく思え…更に、母自身の機能のためにも料理などした方が良いのではないか?との思いも。以前から、古い時代の人のわりに、テレビからの影響が大きい人だとは思っていましたがまさかドラマの台詞に影響を受けるとは。自分に都合が良い台詞だからでしょうが。(略)少しは改心してもらうには、どうしたら良いでしょうか?」

 アホらしい…とは思いません。そのセリフはお母さんに気づきを与えたのではと思います。たかがドラマのセリフとはいえ、人の心をとらえるためにプロが作っているわけですから、人の心に大きな変化を起こさせても不思議ではないですよね。

 お母さんはきっと以前から「今の自分の人生はなにか割にあわない。理不尽だ」と思っていたのかもしれません。またそれを口に出すこともなかった。でもドラマである日、気がついてしまった。「長い主婦業……そろそろ定年でもいいのでは?」と。

 お母さんが何を思って日々を過ごしていたのか、一緒にドラマを見ていても家族は知らない。時にはドラマのセリフのほうが、彼女を救うこともあるのですね。

「契約」と割り切れる? ますます今後が気になります!

 逃げ恥のセリフをきっかけに、さまざまなつぶやきがネット上に広がっています。「いきなり婚」「契約結婚」は、女性たちの救世主になるのか? それともやはり「契約」だけでは無理なのか?

 ドラマでは、主人公たちに名言をくれる、癖のある脇役たちも素晴らしい。逃げ恥の名言まとめから、私はこんな言葉を選んでみました。

 「自分がかけた愛情と同等の愛情が返ってこないと人は不安になる。愛情がもらえなくても、同等の見返りがあれば、納得は出来ることもある。お金だとか、生活の安定だとか、でもね、おもいが強いほど次第に耐えられなくなるんだ」(バーのマスター山さん)

 やっぱり割り切ったつもりでも割り切れない。それが人間なんだなとしみじみしてしまいます。ますます今後が気になる、今季の一押しドラマです。

白河桃子
白河桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト・作家

 相模女子大学客員教授、昭和女子大女性文化研究所客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」「一億総活躍国民会議」の民間議員も務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事、リーマンブラザースなどを経てジャーナリストに。女性のキャリア、働き方改革などをテーマに発信している。「婚活時代」(山田昌弘共著)で「婚活ブーム」の火付け役となった。著書に「妊活バイブル」(講談社新書)「女子と就活」(中公新書ラクレ)「産むと働くの教科書」(講談社)「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ポプラ新書)など。「仕事、出産、結婚、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。

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