「昭和な男」と批判するのは簡単ですが

男性学ゼミ

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結婚した男が抱える「不良債権」

 今から10年前の2006年に放送されていたドラマ「結婚できない男」(関西テレビ制作、フジテレビ系列)で、阿部寛さん演じる40歳独身の主人公・桑野信介が、「妻と子どもと家のローン」を既婚男性の背負う「三大不良債権」と表現しました。

 女性に対してずいぶんと偏見のある人物のようですが、夫であり、父でもある男性が抱える重荷を的確に表現していると思います。

 「女性よりも男性の方が大変だ」などと言いたいわけではありません。ここで問題にしたいのは、男性の場合、学校を卒業して働き始めたら、定年退職まで仕事を続けるべきだというルールが強固に存在しているということです。不良債権と呼ぶべきかどうかは分かりませんが、実際、仕事を途中で投げ出さないように、家族の生活費、子どもの教育費、そして、住宅ローン――次々と足枷(あしかせ)()められていきます。

 その意味で、結婚した男性に期待されているのは、「変わらないこと」だと言えます。

 中高年になってから、急に音楽に目覚めてミュージシャンを夢見たり、蕎麦(そば)打ちにはまって蕎麦屋になろうとしたりすると、長期的に安定した収入を期待していた家族が困るというわけです。25年ローンを組むということは、当たり前ですが、25年間は会社を辞めずに働くことが前提になっています。

男性が「変わること」を許さなければ、社会は変わらない

 正社員ではない生き方を選んだ既婚男性が、発言小町に非正規雇用を許してくれない妻にストレスというトピックを投稿していました。

 トピ主さんは33歳、パートで働く妻と4歳の娘さんと暮らしています。大手企業でシステムエンジニアとして働いていましたが、「過労死レベルの残業で、毎日終電で帰宅する日々」。とうとう産業医からうつ病と診断されてしまいます。1年間の休職後、元の職場に戻る気がせず、退職されたそうです。

 現在は派遣のシステムエンジニアとして働いているため、時間に余裕があり、家族と過ごす時間も増えています。本人は満足しているのですが、奥様は納得がいかないご様子です。「妻は私が派遣社員として働くのが不満で、たびたび嫌味を言われます。そして正社員の仕事を探すように言われます。まるで怠け者のように言われて腹が立ちます」

 もちろん、パートで働く奥様の立場からすれば、将来への不安からトピ主さんにつらくあたってしまう気持ちは理解できます。男女の賃金格差が大きい日本では、女性が働いても、男性と同じ稼ぎを得るのは困難です。

 トピ主さんの主張に対して、ユーザーの皆さんからは、「この先、子供の教育費も必要になりますし、住宅や老後の備えなども考えていますか」「今はまだ良いけど、5年10年20年後も考えてますか? 奥さんの不安は当然だと思います」といった声が相次ぎました。

 女性活躍や働き方改革をめぐる議論が盛り上がる中で、「なぜ男性は変わらないのか?」「昭和の考え方を引きずっている」としばしば批判されます。その答えは簡単で、先ほども述べたように、男性は「変わらないこと」が期待されているからです。したがって、トピ主さんの悩みも、なかなか賛同が得られません。

 しかし、男性に「変わらないこと」を求め続ければ、長時間労働の是正や仕事と家庭の両立を実現することは不可能です。男性が仕事中心の生き方を「変えること」に対して、反射的にアレルギーを起こすのではなく、もう少し寛容に受け止めることも必要ではないでしょうか。

田中俊之
田中俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部准教授

 1975年生まれ。学習院大、東京女子大などの非常勤講師を経て、2013年から現職。男性であるために抱える生きづらさなどを分析・考察する「男性学」の第一人者として、新聞、雑誌への執筆やラジオ出演、講演などで活躍している。主な著書に「男がつらいよ」(KADOKAWA)、「男が働かない、いいじゃないか!」(講談社+α新書)、「不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか」(祥伝社新書、共著)など。

https://twitter.com/danseigaku