「“女性として”尊重される」ことに潜む罠

男性学ゼミ

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合コンで使うとモテる!? 「さしすせそ」とは

 社会学者のアーヴィング・ゴッフマンが1959年に出版した「行為と演技 日常生活における自己呈示」の中に、次のような文章があります。

 アメリカの女子大生は、デートの相手になりそうな男子学生の前にいるときは、以前は自分の知性・技能・決意のほどを低めに見せたし、いまでも明らかにそうしている。男友達が彼女たちのすでに知っていることを退屈な仕方で説明するのを黙って聞いているということである。

 「女性が男性を立てれば、男性はいい気分になり、結果として女性はモテるぞ」とゴッフマンが皮肉を交えて教えてくれているわけです。ストレートすぎて気を悪くした方がいるかもしれませんが、社会学者の使命は気の利いた皮肉を言って、普段は隠されている社会の現実に光を当てることなので、その点はどうかご理解ください。

 50年以上前のアメリカの話なんて自分には関係ないと思うかもしれません。しかし、現在の日本でも、同じことは繰り返されています。

 女性が合コンで使うとモテると言われている「さしすせそ」をごご存じでしょうか。「さ=さすが」「し=知らなかった」「す=すごい」「せ=センスいいですね」「そ=そうなんですか」といった具合です。

 合コンで、つまらない話を得意げに語る男性に対して、「え~知らなかった! そうなんだ! すごい!」と受け答えをしていれば、LINEのIDを交換し、その後、デートの約束ぐらいは簡単にできる――そんなイメージなのでしょうね。

「男性はリードする側/女性はリードされる側」という「常識」

 さて、初デートの日、相手の男性が何もプランを考えていなかったり、車で迎えに来てと頼んできたりしたらどう思いますか。「私は大切にされていない!バカにされている!」と怒ってしまうかもしれませんね。

 「発言小町」で、車で迎えに来てと頼んだら、デートを断られたという30代男性の投稿を見つけました。トピはこちら⇒迎えに来てと頼んだだけで

 婚活パーティーで出会った女性との初デート。トピ主さんは駅からちょっと離れたところにおいしいお店があるから、そこで食事をしようと提案します。

 トピ主さんは電車、お相手の女性は車とのこと。そこで、トピ主さんは、「では○駅(女性の最寄り駅)まで行きますので、駅まで迎えに来てもらっていいですか?」と尋ねました。相手の女性の答えはこうです。「初回の食事で女性の車に乗ろうなんてびっくりです。今回はやめときましょう」

 お相手の方は、おそらく自分が「女性として尊重されていない」と感じたのだと思います。世の中には、「男はリードする側/女はリードされる側」という「常識」があります。したがって、この場合、男性が車で迎えに行き、女性は車で迎えに来てもらうのが「正解」なのです。

長期的に良好な関係を築きたいなら…

 しかし、ちょっと落ち着いて考えてみてください。女性が男性にリードしてもらう以上は、ゴッフマンが50年以上も前に指摘した状況と同じように、女性は男性をおだて続けなければなりません。そして、その関係性は、つき合ってからも、結婚してからも同じです。

 「知ってた…つまらない…あっそう…」と心の中で思っていても、「え~知らなかった! そうなんだ! すごい!」と言わなければならないなんて苦痛で仕方ないですよね。最初は耐えられても、必ずいつか我慢の限界が訪れます。

 つまり、結婚のような継続的な関係を視野に入れた場合、「男がリードする側/女がリードされる側」という「常識」に従うことは、「正解」とは言えないのです。

 自分を大切にしてくれる男性が好きという女性の意見を、しばしば耳にします。「君を一生守るよ」なんていう男性からの強気な感じのプロポーズに憧れる女性もいるかもしれません。「女性として尊重されている」と(うれ)しくなるでしょう。しかし、それは「(わな)」です。長期的に良好な関係を築いていきたいのなら、「人として尊重されている」ことの方が重要です。

 男女がお互いに「人として尊重し合える」ようになれば、男性が女性に車で迎えに来てもらっても、誰も違和感を抱かないはずです。トピ主さんのような悲しみを味わう男性も減るでしょう。

 そして、何より大切なのは、女性が「リードされる側」という役割から解放され、自分で物事を決められるようになることです。性別で役割を二つに分けるのではなく、そろそろ「人として尊重し合える」関係を目指しませんか。

田中俊之
田中俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部准教授

 1975年生まれ。学習院大、東京女子大などの非常勤講師を経て、2013年から現職。男性であるために抱える生きづらさなどを分析・考察する「男性学」の第一人者として、新聞、雑誌への執筆やラジオ出演、講演などで活躍している。主な著書に「男がつらいよ」(KADOKAWA)、「男が働かない、いいじゃないか!」(講談社+α新書)、「不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか」(祥伝社新書、共著)など。

https://twitter.com/danseigaku