家事に非協力的な夫という「今そこにある危機」

男性学ゼミ

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 妻が主婦であろうが夫と同等に働いていようが、夫婦の家事分担時間にあまり変化はなく、「圧倒的不公平」が存在している。立命館大教授の筒井淳也さん(家族社会学)は、著書「結婚と家族のこれから 共働き社会の限界」(光文社)でそう分析しています。言うまでもありませんが、負担が偏っているのは妻の側です。

 働く女性が増えているとは言え、最新のデータでも50%程度の女性が第一子の出産をきっかけに仕事を辞めています。1980年代後半から2000年代後半にかけては、第一子の誕生後に、実に60%もの女性が退職していました。

 長期的な傾向として、もともと働いていなかった人を含めると、子どもが小さいうちは専業主婦になる女性が多数派です。したがって、結婚初期のうちに、「男は仕事、女は家庭」というルールが家庭内に定着し、その後も、変更されないケースが多いのだと考えられます。平等な家事分担を目指すのであれば、妊娠や出産を経ても、女性が安心して働き続けられる社会を作っていかなければなりません。

「正論」だけで社会は変えられるか?

 共働き社会を目指す時代にふさわしいことを書いてきましたが、こうした「正論」を唱えていれば、社会はいい方向に変わるのでしょうか。不安になる投稿を見つけました。タイトルは「私だって疲れてる(駄)」。トピ主さんは看護師として働く40代の女性で、朝から洗濯、掃除、朝食の用意、そしてお弁当作りまですべての家事をこなしています。しかし、夫はゴミ出しすらやらない。

 時々、「疲れているし、体調も悪いから少しは手伝ってほしい」と言っても、「俺だって疲れてる」と相手にしてくれないそうです。ちなみに、お子さんはいないとのことなので、ずっと共働きでやってこられたのでしょう。にもかかわらず、「圧倒的不平等」が解消されていません。トピ主さんが憤りを感じるのは当然です。

 確かに、「男も女も、家庭も仕事も」と自由に選べる社会は、「男は仕事、女は家庭」のように性別で役割が決めつけられた社会よりも生きやすいはずです。しかし、この投稿からも分かるように、日本の現状では、まだまだ「男は仕事、女は家庭」というルールが根強く残っており、男性だけではなく、女性自身がその意識を持っていることも多いようです。この点については、筒井さんの本にも、「性別分業態度を身につけている妻は、たとえ時間と収入面で夫と対等でも、家事を多くこなそうとします」という指摘があります。

 ただ、男性の家事参加は当たり前という空気だけはできあがっていますから、家事に非協力的な夫を簡単に「昭和的だ」「古臭い」と断罪することはできます。しかし、それで男性が主体的に家事・育児に取り組むようになるわけではありません。

 議論の出発点として、日本社会における夫婦関係や労働環境の「現実」を冷静に見極める必要があります。夫が家事をしない原因を突き止めなければ、有効な対策を打てるはずがないのです。

 現代は共働き化に向けての過渡期だとよく言われます。夫の稼ぎだけで家計を維持していくのが難しくなった以上、男女平等の観点に加えて、現実的な生活の問題としても「男も女も、仕事も家庭も」を目指すほかありません。この点には同意します。しかし、未来の理想のために、トピ主さんのような家事に非協力的な夫を持つ女性の苦痛は無視していいのでしょうか。

 社会を変えるためには、「正論」の陰に隠れた負の側面にもきちんと目配りをし、「現実」に向き合う必要があります。「今そこにある危機」を放置して、「正論」に酔っている場合ではありません。

“ショック療法”も効果的かも!?

 家事に非協力的な夫に自覚を促す方法としては、家出をオススメします。「男は仕事、女は家庭」というルールが骨の髄まで染み込んでいる男性には、多少なりともショックを与えるしかないからです。

 投稿には、いきなり「離婚を迫っては」というレスが寄せられていましたが、それよりは穏当な手段だと言えるのではないでしょうか。

 まず、妻がいない以上、自分がやらなければ家事が()まっていきます。数日で家は荒れ果てることでしょう。さらに、この点に意味があると思われますが、「いかに自分が精神的にも妻に甘えていたのか」を理解できます。旅行や仕事ではなく、自分一人が家に残され、孤独を味わうことでようやく気がつける心情があるはずです。

 かわいそうなどという気持ちは禁物。長期的にいい関係を作るために、ここは心を鬼にしてください。なお、荷物をまとめる姿などは見せず、ある日突然、実行する方が効果的です。

田中俊之
田中俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部准教授

 1975年生まれ。学習院大、東京女子大などの非常勤講師を経て、2013年から現職。男性であるために抱える生きづらさなどを分析・考察する「男性学」の第一人者として、新聞、雑誌への執筆やラジオ出演、講演などで活躍している。主な著書に「男がつらいよ」(KADOKAWA)、「男が働かない、いいじゃないか!」(講談社+α新書)、「不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか」(祥伝社新書、共著)など。

https://twitter.com/danseigaku