馬車馬のように働く男性は素敵ですか?

男性学ゼミ

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 はじめまして、今回から「男性学ゼミ」を担当させていただく社会学者の田中俊之です。男性学の専門家として、男性が男性だからこそ抱えてしまう「悩み」や「葛藤」を研究しています。

 男性学は女性学からの影響を受けて成立していますので、決して男性をえこひいきする学問ではありません。女性の方々はご安心ください。女性学と男性学は「男女差別の解消」と「多様な生き方が認められる社会の実現」という目標を共有しています。

 男性学の視点から「発言小町」のトピックを考察することで、男女のよりよい関係についてみなさんと一緒に考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

「大黒柱=男性」のプレッシャー

 さて、ここ最近、立て続けに「うちの夫のいいところは、馬車馬のように働くところ」という女性の発言を耳にしました。懸命に働く夫を褒めている様子で、悪意はまったく感じられません。ただ、馬車馬の本来の意味は文字通り「馬車を引く馬」なので、男性の立場からすると、「いやいや、人間だし」「もう少し別の言い方はないものか」と戸惑ってしまいます。

 確かに働く女性は増えていますが、現代でもほとんどの家庭でメインの稼ぎ手は男性です。経済的な面では、男性の働きぶりに家族の命運がかかっているのですから、仕事がないと心配され、むしろ働きすぎるぐらいの方が安心感を与えるでしょう。

 だから、「馬車馬のように働く」という表現が、妻からの夫に対する褒め言葉として成立するわけです。逆に無職の中高年男性への社会の視線は明らかに厳しいものがあり、仕事については男性の側に過剰なプレッシャーがかかっていると考えられます。

 こうした問題に関する悩みはないか探してみたところ、「僕だって疲れてますが」と題された20代会社員男性の投稿を見つけました。

 結婚したら扶養の範囲で働きたいと主張する彼女に対して、トピ主さんは共働きを望んでいます。「(彼女は)仕事のストレスで燃え尽きかけているそうです。同じ部署ですから、彼女の言う事は理解出来ます。実際激務です。でも、それなら僕も同じです」。男性は定年退職まで一家の大黒柱として働くのが「当たり前」とされていますが、そうした社会の常識に投稿者さんは疑問を投げかけています。

「男も女も、仕事も家庭も」は現実的か?

 現代の日本には、「男は仕事、女は家庭」と「男も女も、仕事も家庭も」という二つの家族像があります。結婚を考えているなら、二人が理想とする家族像を真剣に議論し、本音をぶつけ合うのはいいことだと言えるでしょう。

 問題なのは、「男は仕事、女は家庭」はもう古く、今は「男も女も、仕事も家庭も」の時代になっていると、トピ主さんが認識しているかもしれない点です。現実には6歳未満のお子さんがいるご家庭では、妻の5~6割は主婦をしており、正社員は2割しかいません。

 フルタイム共働きの場合、平日は夜まで誰も家庭にいない状況になるので、当然、家事がたまっていきます。地域とのつながりを作るのも困難です。子どもができれば、育児をどうするのかも考えなくてはなりません。

 多くのフルタイム共働き世帯は、睡眠時間を削って、いっぱいいっぱいの状態で生活しています。保育園の待機児童問題が典型的ですが、夫婦が“普通”に「仕事も家庭も」をこなしていくための支援体制が整っていません。どの業界でも男性の給与が減っている現代の日本では、「男は仕事、女は家庭」は理想的ではないが現実的であり、「男も女も、仕事も家庭も」は理想的ではあるが現実的ではないのです。

 このトピックについては、過去にジェーン・スーさんも取り上げていて、「男女平等とはつまり、今まで女性が背負ってきた苦労を男性とシェアするだけでなく、男性が背負ってきた苦労も女性とシェアすることだと思います」とコメントしています。

※記事はこちら→男性の苦労、シェアする平等…ジェーン・スー

 まったく同意見です。こうした理想的な男女の関係に、どうすれば現実が近づいていくのかを社会全体で考えていく必要があります。

 ただ、今まさに結婚を考えている投稿者さんが、時間のかかる社会の変化を待つことはできません。そこでアドバイスですが、どちらのスタイルを選んでも、結果的に家族は理想的でもなければ、思い通りにもならないと考えてください。結婚と一口に言っても、世の中にはいろいろな個性が存在しますから、組み合わせによって中身は多様だからです。

 家族が理想的でもなければ、思い通りにもならないことを嘆くのではなく、どうすれば長期的に安定する関係が築けていけるのかを、目の前の現実に合わせて夫婦で考えていけたらいいですね。

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田中俊之
田中俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部准教授

 1975年生まれ。学習院大、東京女子大などの非常勤講師を経て、2013年から現職。男性であるために抱える生きづらさなどを分析・考察する「男性学」の第一人者として、新聞、雑誌への執筆やラジオ出演、講演などで活躍している。主な著書に「男がつらいよ」(KADOKAWA)、「男が働かない、いいじゃないか!」(講談社+α新書)、「不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか」(祥伝社新書、共著)など。

https://twitter.com/danseigaku