団地の1階で子ども食堂 食材やりくり・交流

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子どもたちが囲むオープンキッチン。思い思いのグループで席につく

 埼玉県吉川市のUR吉川団地では、訪問介護の事業者である社会福祉法人「福祉楽団 地域ケアよしかわ」が、2年前から週3回のペースで地域の子供に無料で食事を提供する「子ども食堂」を開いています。1人で食事をしていたり、栄養バランスが偏っていたり――そんな子どもたちの課題に地域で向き合っています。食材のやりくりからボランティアの確保まで試行錯誤をしながら、様々な世代が一緒に暮らす団地ならではの良さも出てきたそうです。

広場に面した明るい「子ども食堂」

 平日の午後3時。団地の集会所がある棟の1階では、2時間後にオープンする「子ども食堂」の準備で、ボランティアの女性6人が忙しく立ち働いていました。野菜や肉を切ったり、炊飯器にコメをセットしたり。夕飯のメニューはその日によって違うそうです。

午後3時ごろから仕込み作業が始まる。ボランティア6人の作業は息もぴったり

 広場に面した明るい事務所はおよそ56平方メートルで、学校の教室くらいの広さ。奥半分が事務机のある訪問介護スタッフの執務スペース。残り半分の広場側が午後4時半から6時半まで子ども食堂「ころあい」へと変身します。

 「福祉楽団 地域ケアよしかわ」事業部長の石間太朗さんは「4年前に千葉から埼玉に進出したとき、訪問介護がメインなんだから机二つあれば良いという議論もあったんです。でも、せっかく社会福祉法人が運営するのだから、地域開放型のサービスも可能なのではと当初からオープンキッチン付きで設計しました」と説明します。

家庭の事情は様々 手探りでスタート

小学生が遊ぶ広場。商店やコミュニティースペースは、1階に入居している

 訪問介護のサービスを始めてみると、団地に子どもたちの姿が多いことに気づいたそうです。地元の民生委員らが中心になって開いている寺子屋(学習塾)から、昼ごはんを100円のカップラーメンだけ、という子がいると耳にしました。木工のおもちゃ作りのイベントを開いたときには、事務所に来て、「ハラ減ったよ。何かない?」と言ってくる子もいました。

 「聞いてみると、夜遅くまで親が帰宅できないなど、家庭の事情があることがわかりました。おにぎり一つでいいから、何かできないかと考えたのがきっかけです」と石間さん。地元の民生委員らと一緒に、ほかの地域の「子ども食堂」を見学し、週3回ならどうにかできるのではないかと考え、2015年10月にスタートしました。

 最初は、食材のほとんどを「福祉楽団」が持ち出す形で運営していましたが、次第に近くの農家やロータリークラブのメンバーが寄付してくれるようになりました。この日も冬瓜、柿、大根などの野菜や果物が農家から届けられました。収穫したばかりのサツマイモを何箱も持ってきてくれた農家の男性もいます。「名乗るほどのものじゃないんで」という男性に、石間さんは「お名前をいただけますか。本当に助かります」と感謝を伝えました。毎週金曜には「育ちざかりの子どもたちに肉を食べさせてやって」と地元医師会が肉を買ってきてくれるようになりました。

毎回50食を用意 会話も弾む

1年ぶりに訪れたという地域の若いお母さんに話しかけるボランティアの女性

 「おなかすいたー」「もう少しでできるからね。手洗っていらっしゃい」
 2人、3人と飛び込んでくる子どもたちにボランティアの女性たちが優しく声をかけます。毎回50食近い食事を用意し、予約は不要。年齢制限もありません。自分の名前を書くだけでいいのです。
この日のメニューは冬瓜の麻婆煮、カキと大根のサラダ、鶏肉と大根の煮物、大根菜っ葉とイモの味噌汁にご飯という組み合わせ。大根は間引き大根。これも別の農家から提供されたものです。

 「うまっ!」「今日のテレビ、何見る?」。食事をしながら、子どもたちの会話も弾みます。子ども2人を連れて訪れた母親は「子どもの世話に疲れ切ったときに、こんなに温かいご飯があれば、また元気も出ます。人の作ったものって、ありがたいですね」と話していました。

ご飯と味噌汁は温かい状態で。おかずは、一人分ずつあらかじめ取り分けられている

 石間さんは、「障害のあるお子さんを育てているお母さんが、放課後のデイサービスが終わったあと、親子で立ち寄られるケースもあります。一人の食事では味気ないという高齢の方が参加されるケースもあります。みんなで賑やかに食事をする中で、日頃の悩みを解決できれば」と話します。

日がとっぷり暮れたあと、「子ども食堂 ころあい」は盛況だ

 吉川団地では昨年から、「福祉楽団」と同じ1階部分に、未就学児を持つ親を対象にした子育て支援センター「ふぁみりんぐ“ぴこの森”」、団地自治会と連携してだれでも気軽に立ち寄れるコミュニティースペース「みんなのひろば」など、住民が集える場の開設が相次いでいます。

 地域の福祉拠点として、どう機能できるか。団地の未来に向けて、試行錯誤が続きます。

 UR吉川団地
JR武蔵野線・吉川駅からバスで10分。総戸数1914戸の大規模団地。1972年から供用開始。