夏のおいしさ卓上へ、産直レストランの収穫を東京・青梅に訪ねる

ステラミニトマト

 農業と縁のなかった企業や飲食店が野菜作りに取り組むケースが増えています。東京都青梅市で野菜や果物などの有機栽培を手がけている株式会社「TYファーム」もその一つ。農場を訪ね、野菜作りへの思いを聞いてきました。

「ドレッシング要らず」の甘いルッコラ

 JR新宿駅から青梅線直通の快速電車に乗って、河辺駅まで1時間余り。そこからさらに車を十数分走らせると、のどかな田園風景が広がります。「この辺りは丘陵地で朝晩の寒暖差が大きいので、野菜の栽培に適しているんです」。そう話すのは、TYファームの代表取締役・太田太さん(34)。

TYファームの農場

 倉庫・保管業の寺田倉庫(本社・東京都品川区)が2015年4月、社内プロジェクトとして「TYファーム」を設立し、青梅市内で農業を始めました。農薬や化学肥料を使わない有機農法、自然栽培にこだわり、現在は計約2.5ヘクタールの農場で、約40種類の野菜や果物を作っています。夏場は、トマトやナス、オクラ、ケール、ルッコラ、ビーツといった野菜の収穫が盛んな時期です。

 「食べてみますか」。太田さんが防虫ネットに覆われた畑からルッコラの一片をもぎ取り、差し出してくれました。ルッコラは、地中海沿岸が原産とされるハーブの一種で、サラダなどに使われます。摘みたての葉を口にふくむと、ほのかな辛み、そして葉野菜特有の甘みが口の中に満ちてきます。これほどの甘みがあれば、ドレッシングがなくても十分おいしく食べられます。

ケール

 青汁の原料として知られるケールもまた、そのまま食べて甘みを楽しむことができます。「ケールというと、青汁のイメージが強いと思いますが、その概念が変わりますよ」と太田さん。

1年かけて「土を作る」

 野菜本来のおいしさを生み出すのは、豊富で清らかな水を供給してくれる多摩川水系などの水源。それに、自社で手作りしている堆肥にあります。野菜の残りかすや落ち葉、ワラなどを細かくして混ぜ、さらにもみ殻や米ぬかなどを入れて発酵させたものが堆肥で、出来上がるまで半年から1年を要します。ものによっては野菜を作るよりも堆肥作りに時間がかかるそうです。「まさに『土を作ること』が僕たちの商売だと言っていい。それによって(他産地の野菜との)おいしさの違いが生まれるんです」と太田さんは強調します。

雑草が茂る畑で育てる本来の味

 農場を歩いていると、ベージュ色をしたカボチャの仲間が畑にたくさん転がっているのが見えました。南米が原産とされる「バターナッツ」です。畑の中は、バターナッツを覆うように雑草が生い茂っています。太田さんによると、「この状態が一番いい」のだそうです。雑草が土壌内の過剰な栄養分を吸収してくれるうえ、雑草が根を張ることによって土壌中に酸素がいきやすくなり、農作物が健康に育つための適度な栄養分が保たれるのだといいます。

バターナッツ

 別の場所には、ミニトマトの露地栽培がありました。きれいな球形をした、肉厚が特徴の「ステラ」と呼ばれる品種です。艶やかに輝くオレンジの実は、まだ完熟してはいないものの、「今が食べごろ」と太田さんは説明してくれました。食べてみると、甘みはそれほど強くありませんが、ほどよい酸味が心地よく、口いっぱいに広がります。「高糖度のトマトがはやっていますが、これこそがトマト本来の味ですよ」と太田さん。ハウス栽培にせず、日当たりや通気などを自然の条件に近い状態で生育させることで、トマト本来の味を引き出しているといいます。

異業種からの転身、「自然の中での仕事が好き」

 ミニトマトのすぐそばには、ロシア料理「ボルシチ」の材料として知られる赤い根菜・ビーツの畑があります。そこでは、かさをかぶった一人の女性が鎌を手にして収穫に精を出していました。TYファームの社員・島田景子さん(33)です。

太田太さん(右)と島田景子さん

 「元々、土に触れることが好きだった」という島田さんは、TYファームの理念に共感して、1年余り前、スポーツクラブのインストラクターからこの世界に転身しました。現在は、TYファームでの仕事とヨガのインストラクターを掛け持ちで、「自然の中で仕事をするようになって、わずかな体調の変化にも気付くようになり、実際に体調もより良くなりました」と島田さん。

 TYファームの社員は7人で、全員が20~30代。島田さんのように農業とは無縁の世界から飛び込んできた社員が大半で、太田さん自身、かつてはアパレル会社などで営業や広報などを担当。仕事で付き合いのあった寺田倉庫の誘いを受け、同社の農業プロジェクトに参画することになったといいます。

コンセプトは「SEED TO TABLE

 収穫された野菜や果物は、TYファームの直営レストラン「NOZ」(東京都品川区)をはじめ、都内のレストランなどに出荷されるほか、通信販売も受け付けています。

 「自分たちで種を取り、その種をまいて新鮮で安全な作物を育てて、消費者の食卓に届ける。コンセプトは『SEED TO TABLE (種から食事まで)』です」(太田さん)。

 野菜の栽培を本格的に開始してからわずか2年あまり。土壌に合わない外国野菜を育てようとしてうまくいかなかったことなど、「失敗も山ほど経験してきた」と太田さんは振り返ります。でも、経験がない異業種だからこそ、従来の枠にとらわれない新しい農業ができるのかもしれません。(取材:田中昌義)

 

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