松重豊さんの音声ガイドで「北斎」を知る幸せ

 俳優の松重豊さんが10月21日から始まる美術展「北斎とジャポニスム」(東京・上野、国立西洋美術館)で音声ガイドを担当します。映画で葛飾北斎の声を演じたことのある松重さんが、今回は日本の美術を西洋に紹介した美術店店主にふんして、深みのある声で19世紀のパリに案内します。音声ガイドは初めてという松重さんに北斎への思いを聞きました。 

初のガイド役、架空の美術店主に扮し

―― 音声ガイド役は初めてだそうですね。

 いつか声がかかったらやりたいと思っていた仕事で、実際にやってみたらすごく面白かったですね。動く映像にあわせて声を入れるナレーションとは違って、絵の印象を声の表情に載せて、本物の絵の前でナビゲートできる。光栄だと思っています。

 

―― 今回のガイド役は、パリで日本の美を紹介した美術商、林忠正(1853~1906年)をイメージした、架空の美術店店主という設定です。 

 インターネットやカラー写真すらない時代に、東の果ての日本の北斎の絵が面白いと、どうして西洋に伝わったのか。高い志を持って日本の美術を紹介した人たちがいたからですよね。今回の展示で面白いのは、西洋の画家と北斎との作品とを対比させて、そのシチュエーションを伝えていくこと。西洋の芸術家たちの見たこともない文化に対する恐れと尊敬と、そして、あわよくば構図をマネしてやろうという熱がすごい。新しいものを貪欲に吸収しようという、その時代の人たちの底力を感じます。

―― ジャポニスムの衝撃は、瞬時に情報が流れる今では考えられなかったくらい大きかったのかもしれません。どの絵が一番気になりましたか。

 ドガの踊り子と、北斎の相撲取りの絵でしょうか。力士が相撲を取ったり、バレリーナが踊ったりする場面でなく、バックショットの一瞬を切り取って筋肉の表情で見せている。写真を見慣れている現代なら、「構図」という形で視線の違いを意識できますが、そんな情報がない時代に、上から見るか、下から見るか、後ろから見るかという構図の違いが斬新だったのでしょうね。

北斎はロックな変態、その生き方に憧れます

―― 杉浦日向子さん原作の映画「百日紅さるすべり」(2015年)でも、北斎の声を演じられていて、北斎に縁があります。どんな人だったと思いますか。

 一言で言うと、変態ですね、良い意味で。芸術的な作品から漫画、エロまで、清濁併せのむというか、何でもやりますという、表現者としての変態的なまでのジャンルレス。僕らの世界でも恋愛ものしかやらない、とか、主役しかやらない、とかより、何でもできますという姿勢でいるのが潔い役者だなと思っている。生き方が似ているなと思いましたね。

―― 共通した部分がありますか。

 突き詰めていくと、自分の表現したいものが自在に何でもできるようになりたいという本能的な欲望だと思うんですよね。風景画でも人物画でも、リアルでもシュールでも、究極を追い求めていく。彼にとっては、表現することが大事で、作品の評価は「別にどうでもいいぜ」「それより、俺にビックリするような絵を見せてくれよ」っていうロックな部分がある。僕らも現場で、見たこともない面白いシーンになったねというのがあれば、それでいい。全然違う業種ですが、ロックな変態として憧れますね。

―― では、北斎のように90歳近くまで現役で?

 北斎みたいな生き方のかっこよさは見本ではありますが、僕らは筆を折る前に、記憶力が落ちて、セリフが覚えられなくなったらダメですからね(笑)。 

―― 来場者の方にメッセージを。

 絵を見て何を感じるかは、ご本人しかわからないことなのですが、僕としては楽しみながらガイドができました。「さあ、次に進みましょう」とか「お帰りの際は……」と、その世界に自分が入り込んで案内するのも初体験で。一緒に北斎の世界を楽しむお手伝いになれればという気持ちでいます。

松重豊(まつしげ・ゆたか)
 1963年、福岡県生まれ。蜷川スタジオを経て、映画、舞台、テレビ等幅広く活躍。主演を務めた人気ドラマ「孤独のグルメ」シリーズは、season6まで続く。出演作に「アウトレイジ 最終章」(公開中)、「検察側の罪人」(2018年公開予定)など。