娘から見る北斎 絵に魅入られた親子のドラマ再放送

俳優・長塚京三さん(左)と宮崎あおいさん(右)。ドラマ「眩~北斎の娘~」に出演する。お栄(宮崎)は父・北斎(長塚)を支えながら、自らの才能も開花させていく

美人画の名手お栄、宮崎あおいが演じる

 幕末の浮世絵師・葛飾北斎の共同制作者で、美人画の名手だった三女・お栄(雅号は応為)が注目を集めている。女優の宮崎あおいさんがお栄を演じたNHKの特集ドラマも好評を博し、10月7日に再放送される。今も人々を魅了し続ける北斎親子の作品に迫る。

 今年5~8月、大英博物館で日本人画家としては22年ぶりに、大規模な展覧会が開かれた北斎。お栄の作品も展示され、多くの来場者を魅了した。宮崎さんはドラマの収録前に同博物館で作品を見て感銘を受け、お栄を演じる手がかりをつかんだという。

 エグゼクティブ・プロデューサーの佐野元彦さんは、「宮崎さんは、北斎は今もイギリスで人気のある画家なのだと実感し、その娘を演じることに対して気持ちが高まったようです。ドラマの冒頭にも、宮崎さんが大英博物館を訪れる場面を入れました」と語る。

絵に没頭し、夫と離縁、下町生まれの江戸っ子

 特集ドラマ「くらら~北斎の娘~」は、直木賞作家の朝井まかてさんの長編小説が原作。天才絵師である父・北斎(長塚京三)への敬意や絵に対する情熱、兄弟子・善次郎(松田龍平)へのひそかな恋心を描く。佐野さんは、「たまたま父が天才画家で、娘も隠れた天才だったということ。北斎親子の人間性を描くホームドラマにしたかった」と語る。

 お栄は下町で生まれ育ったちゃきちゃきの江戸っ子。絵に没頭するあまり夫と離縁し、酒をがぶ飲みしながら絵筆を握る。ドラマでは、宮崎さんの少し荒っぽい言葉遣いがピタッとはまっている。

 北斎は生涯で93回も引っ越しを繰り返したなど、ともすれば「変人ぶり」に注目が集まるが、佐野さんは常識的な面もあったと推し量る。「江戸時代、浮世絵は工房で弟子たちとの共同作業によって作られた。弟子たちと誠実に向き合い、統率力がなければ務まらなかったはずだ」とみる。

代表作は「夜桜美人図」、きらめく恋と才能

 お栄はそんな父の姿を懸命に追いかけた。「絵の神様に対してはけなげだけれど、周りの人には頓着がない。絵という魔物に取りつかれ、もしかしたら北斎が嫉妬するほどの絵を描いたかもしれない」

 北斎の傑作「冨嶽三十六景」、お栄の代表作「夜桜美人図」など、劇中で紹介される絵にも注目だ。描き損じの絵を含めて専門家が1点ずつ手描きして忠実に再現し、大阪・あべのハルカス美術館の浅野秀剛館長らが美術考証を担当した。

 ドラマでは、お栄が2本の絵筆を操って描く場面を盛り込み、技術の高さを暗に示した。色を付ける筆と、水で色をぼかす筆の2本を、手の内でくるくると回して持ち替える。当時、ベテラン画家が習得した描き方だといい、 演技のために収録の1か月半前から絵を描く特訓を受けた。「4Kカメラでの撮影だったこともあり、絵の再現には力を入れた。ドラマを通して、北斎やお栄の姿を浮かび上がらせたい」と佐野さん。

応為(お栄)と北斎の姿を描いたとされる「北斎仮宅之図」の一部(国立国会図書館ウェブサイトより)

 狭い人間関係の中で、画家としての才能を互いに値踏みする苦しさも描かれる。お栄は善次郎に恋心を抱くが、善次郎はお栄に画力でかなわないと悟り、すっと身をひく。「人の業だなと思う。お栄が腕を上げるのは、善さんを失った後に彼のために絵を描いたからだと、僕らは想像を膨らませてドラマを作った」

 気っぷが良くて、独創的な絵の世界を築いたお栄。その姿はまばゆいほどの輝きを放っている。「眩~北斎の娘~」は、10月7日午後4時45分から、NHK総合で再放送される予定。 (淵上えり子)