作家の白岩玄さん(39)は、愛知県内で、妻(34)と長男(5)、長女(2)の4人で暮らす。日々子どもたちに向き合いながら、父親のあり方について考え続けている。
育児を褒められることに違和感
21歳の時、「野ブタ。をプロデュース」で文芸賞を受賞し、作家デビュー。32歳で結婚して以来、共働きの妻と家事も育児も分担する。一人暮らしの経験もあり、掃除や片づけも苦にならない。

自宅で仕事しているため、子どもが生まれてからも、おむつ替えや着替え、遊び、保育園への送迎などを自然とやってきた。妻の実家近くに引っ越した今は、公園や海などで外遊びも楽しむ。「毎日にぎやかで慌ただしいが、子どもが生まれて見える世界が変わった」とほほ笑む。
長男の誕生後、しばらくは「育児を手伝う」という感覚があったことは否定できないという。しかし、長男が1歳になった頃、生活が変わった。妻が復職したが長男は保育園に入れず、約3か月、日中一人で面倒を見ることになった。毎日、着替えやおむつなど大量の荷物をベビーカーに積んで、公園や児童館に行く。ぐずって大変だったり、うんちをしてもおむつを替える場所がなかったり。医療機関やベビー用品店にも行き、離乳食も食べさせる。こんな経験を経て、「手伝う」という感覚はなくなった。「あの期間に、育児の当事者として、責任感が生まれたと思う」
しかし、今度は周囲から育児を褒められることに違和感を持つようになった。一人で子どもを公園や病院に連れていくと、「パパと一緒でいいね」と声をかけられる。おむつを替えると親戚や妻の友達に褒められた。
育児の主体は今も母親で、他の父親に比べて育児に関わっていたら褒められる。「そんな比較に意味はない。自分がやりたいからやるだけ。それが自分の家族の形だから」。褒められてうれしい自分もいたが、居心地の悪さが上回った。今は周囲の言葉を気にせず、たんたんと過ごすようにしている。
子育て経験も作品の力に
育児や家事に1日の多くの時間を割く。仕事が思うようにできず焦った時期もあったが、「作品の芯は、生活で作られている。パソコンの前で1行書くのに考える時間があったら、子どもたちを1時間見ている方が良い文章を書けるかもしれない」と割り切った。
デビュー後、作品ごとにテーマを変えてきたが、前作「たてがみを捨てたライオンたち」では「男らしさ」の呪縛に向き合う男性たちを描いた。
最近、文芸誌に連載した「プリテンド・ファーザー」は、2人の父親が、それぞれの子と一緒に4人で同居する話だ。「子育ての経験が蓄積され、父親について考え続けているからこそ生まれた作品」と話す。
今は、自身を含めた「父親」のあり方が問われているとも感じている。これまでのように家族のために働き続け、家庭では存在感が希薄――という画一的な父親だけでなく、もっといろいろなモデルがあっていいはずだ。小説なら、いろいろな父親像を提示できる。
「可能性はいっぱいある。多様な父親像、男性像が当たり前になり、子どもたちが大人になったときに、そんな葛藤があったのかと驚かれるような時代になったらいい」
そんな未来を想像しながら、楽しみつつ父親像の模索を続ける。(読売新聞生活部 木引美穂)