「エルヴィス」数々のヒット曲にのせて描く、プレスリー伝説の裏側

「エルヴィス」はもちろん、希代のシンガー、エルビス・プレスリーのこと。映画はエルビスが42歳で早世するまでの音楽人生を描くが、活動の軌跡をたどるだけなら、ファン以外にとっては退屈な映画になっていただろう。もちろん、才人、バズ・ラーマン監督が、誰もが想像するような映画を撮るはずはない。

黒人音楽に親しみ、不良性感度を押し出していた初期。映画スターとしての絶頂期。活躍の場をテレビに広げていった時代。そして、ラスベガスのホテルで公演を続けた最後期。エルビスがやりたい音楽をやっていた時もあれば、やむなく時代の要請に応じた時もある。その葛藤のドラマこそが、本作の鍵。ラーマン監督は一人の男の視点を導入することで、にぎにぎしいドラマに最後まで一本芯を通す。

男の名はトム・パーカー。エルビスの才能を見いだしたマネジャーだが、金のことしか頭になく、音楽のことは分からないと言い切る。彼にとって歌手は、言ってしまえば金づるだ。ただ、エルビスが脚光を浴びるには、パーカーのショービジネスの才覚が不可欠だったのは間違いない。

そんな男を物語の語り手にすることで、華々しいサクセスストーリーは、苦悩する人間ドラマの色合いを強める。エルビスとパーカーは愛憎を抱えた共犯者。時に手をとりあい、時に反目し。エルビスを演じるオースティン・バトラーの線の細さに対し、パーカー役のトム・ハンクスは貫禄十分。ハンクスの名演により、独特なコンビネーションが、実際もそうだったろうと思わせる。

映画「エルヴィス」
(C) 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

ラーマンの独創は尽きないのだろう。「ロミオ&ジュリエット」(1996年)では、シェークスピアの古典を現代に舞台を移し替えてリニューアル。「ムーラン・ルージュ」(2001年)では、19世紀末のパリを舞台にしながら、俳優にエルトン・ジョンの曲などを歌わせた。シェークスピアやムーラン・ルージュを知っていようがいまいが、現代の観客が楽しめる映画を作ったように、今回もエルビスを知っていようがいまいが、若い観客までもが興奮できる映画を作り上げたのである。

短いカットを繰り出し、スローモーションやクローズアップなど、技法を駆使し、時間と空間を行き来する。これほどカット数が多いのに、ほとんど無駄がないのは驚異的だ。歌唱シーンは、いうまでもなく、どれも素晴らしい。

それにしても、公開中の「トップガン マーヴェリック」といい、アメリカ映画のパワーは、コロナ禍と関係なく、健在である。

(読売新聞文化部 近藤孝)

エルヴィス(米) 2時間39分。有楽町・丸の内ピカデリーなど。公開中。

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