「こんな顔で申し訳ない」マスクを外せない人たち、どうしたらいい?

コロナが収束してもマスクをしていたい――。新型コロナウイルスによる行動規制の緩和が少しずつ進む中、他人に素顔を見せたくない「マスク依存」に陥る人が増えています。マスクを外すのは人前で下着を脱ぐように恥ずかしいと、マスクを「顔パンツ」と呼ぶ人も。マスクを外せない理由と、対処法を探ってみました。

醜形恐怖が和らぐ

首都圏のカラオケ店で働く女性(28)は、高校の時に顔へのコンプレックスが強くなり、マスクをするようになりました。大学や卒業後の就職先では少し意識しなくなり、マスクをほとんどしないようになりましたが、コロナ禍で再びマスクをするようになり、外せなくなったといいます。

醜形恐怖症で鼻へのコンプレックスがひどくなり、昨年手術までしましたが、マスクを外すと「こんな顔で申し訳ない」と自己否定が始まり、落ち込むといいます。女性は「顔の中で目は化粧で一番よく見せられる部分だが、鼻や口の周辺はどうにも変えられない」と悩みを吐露します。親しい友人とも食事を一緒にせず、どうしても食べる時は、マスクを一瞬ずらしてすぐに口に入れて飲み込む。「マスクを外すのが全面的にOKになると、私も外さざるを得なくなるかもしれない。毎日ひやひやしています」と不安を打ち明けます。

醜形恐怖症に悩む、28歳の女性
醜形恐怖症に悩む、28歳の女性

化粧品メーカーのマンダムが2022年3月、15~29歳の女性約300人に行ったネット調査によると、「人前でマスクを外すことに抵抗がある」と答えた人は76%に上りました。理由を複数回答可で聞いたところ、割合が高かったのは、「顔に自信がない」(62%)、「隠れているのに慣れてしまった」(48%)、「マスクを取った時の印象ギャップを出したくない」(46%)でした。コンプレックスも比較的高く、「鼻にコンプレックス」が28%、「口元にコンプレックス」が26%でした。

対人関係の不安から自分を守る道具

「マスクは自分と目の前の相手の間にある、一枚の壁。おかげで素の自分でぶつからなくて済む。いつか外さないといけない日が来ると思うと不安です」。東京都内のパート従業員の女性(45)は、2年以上続くマスク生活についてそう話します。

幼少期から対人関係に悩むことが多く、不特定多数の輪の中に身を置くことが苦手で、メンタルクリニックにも通院しています。清掃業務を担当する娯楽施設では、来場者に声を掛けなければならない場面も多く、尻込みしがちでしたが、マスク越しになってから気持ちが楽になったといいます。

「それまでは、お客様に迷惑そうな顔をされるだけで心が折れてしまっていた。今は素顔を半分覆うマスクが自分を守ってくれている感覚があります」

外食の際は一口ごとにマスクを付け外しし、自宅では近くにゴミ出しに行くときも必ず着用します。「マスクなしで外を歩いていると、下着を着けないで歩いているような、裸を見られているような気分になる。今は感染防止ではなく、自分を他人から守るための道具として頼っています」

マスクをすると口元の表情を隠すことができ、相手に自分の心理状態をある程度読まれないようにすることができます。様々な依存症に詳しい浅川クリニック(東京)の浅川雅晴医師は、「元々、他人との会話に不安や恐怖を感じる人が、表情を隠したり、人との心の距離を保ったりするために着用すると、マスク依存になりやすい傾向がある」と指摘します。人と交流する際に緊張や不安を感じ、マスクに過度に依存してしまう人は、社交不安症と呼ばれる病気の可能性もあるそうです。

『マスクを外す日のために』(幻冬舎新書)を2022年5月に出版した精神科医の和田秀樹医師は、「コミュニケーションは表情が分かる形がとても大事。このままマスクをし続けると人の表情が読みにくくなり、コミュニケーションに支障をきたす恐れがある。感情が正しく伝わりにくく、お互いに表情を読み合って円滑な関係を築くことができない。コミュニケーション能力が失われ、孤立を招く恐れもあります」と警鐘を鳴らします。

国は5月下旬、屋外で人との距離がとれるような場合や徒歩での通勤・通学などはマスクは不要としました。ただ、実際には「みんながマスクを着けるから合わせる」といった理由からか、街中でマスクを外す人はあまり見かけません。

小岩榎本クリニック(東京)のふかうち文彦院長は「マスクがあるから外に出られるという人は、マスクを外す時代に戻れば再び外出できなくなる可能性もあります。マスクによって少しでもコミュニケーションができるのであれば、マスクは必ずしも悪ではない」と話します。

その上で、マスクを外せるようにする「暴露療法」という方法を紹介しています。まず、友人や恋人など信頼のおける身近な人の前で外すことから始めて、「思ったほど恥ずかしくない」といった体験を積み重ねます。外す時間や場面を広げて自信につなげ、徐々にマスクがなくても平気なように慣れさせていくのです。「『外せない自分』を責め、自己肯定感を下げてしまう恐れがありますので、周囲から強制的に外させるのは逆効果です」と深間内院長は指摘します。

厳しい暑さが予想される今夏。熱中症の懸念がある時期にマスクを外す動きが広がっていくのかが、ひとつのポイントになりそうです。(読売新聞生活部 小野仁、福元理央)

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