「峠 最後のサムライ」妻を愛し、信念貫く武士の美しさ

「人はどう行動すれば美しいか」。司馬遼太郎は小説「峠」の文庫版のあとがきで、幕末の人間を作る基礎ともいえる「武士道倫理」について、こう書いている。

「峠」を映画化した本作でも、主人公の越後長岡藩家老、河井継之助(役所広司)は、まさに美しい侍として描かれる。

大政奉還後、戊辰戦争が勃発。日本は二分され、旧幕府軍と新政府軍が激しく戦う中、長岡藩もどちらにつくかの選択を迫られる。継之助が選んだのは、いずれにもくみしない中立の道だった。

ここに至るまでの、継之助の足跡については、映画の説明は十分でない。継之助の開明的な発想は、来日した西洋人との交流があったればこそだろうが、映画の場面としてはない。他藩との交渉や戦況を詳しく描くことができれば、継之助の意志が堅固であったことがより鮮明になったはず。ほかにもあろうが、上中下3巻の大部の小説のすべてを網羅し、1時間54分の作品にまとめることは到底無理だ。

いや、それがかなわなくても、本作は十分美しい作品に仕上がっているではないか。

映画「峠 最後のサムライ」
(C)2020『峠 最後のサムライ』製作委員会

役所演じる継之助のたたずまいの美しさはどうだろう。戦争回避のために、新政府軍に直談判する場面。見下すような態度で、眼前に並ぶ薩摩、長州、土佐の藩士。継之助は、戦争が不利益であることを説き、会津藩などを説得するための時間的猶予を求めるが、土佐の岩村精一郎は一蹴いっしゅうする。はねつけるだけでなく、激怒し、罵倒する。しかし、継之助は引くことなく、言葉静かに訴える。

吉岡秀隆の怪演もあり、激高する岩村と我慢する継之助の対照が際立つ。この場面がピークだが、継之助はいつでも容易に動じず冷静。演説をぶつにしてもそうだ。

さらに、夫婦愛。松たか子演じる妻、おすがに対して、継之助は娘のように接しほほえましい。連れ添って行った芸者遊びの席でのカンカン踊り。寄り添って聞くオルゴールの音。一息ついたほのぼのとした感じも、継之助の懐の深さの証しとなり、人間の美しさにつながっていく。

撮影、照明、美術、衣装の格調の高さもいうまでもない。黒沢明監督の助監督だった小泉堯史監督らの仕事は、「雨あがる」「ひぐらしノ記」といった過去の小泉作品と比べても、遜色ない。

司馬が幕末の武士を「人間の芸術品」と称したように、本作は武士の美しさを丁寧に見せ、期待を裏切らない。そして、見終わって思った。これほど美しい日本人は、今どこに存在するのだろうかと。

(読売新聞文化部 近藤孝)

峠最後のサムライ(松竹、木下グループ、VAPほか)有楽町・丸の内ピカデリーなど。公開中。

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