傘で胸を突かれた――。雨傘の出番が多くなる6月。梅雨の晴れ間には紫外線対策の日傘も手放せません。混み合った電車や駅でこの時期、傘が“凶器”となって思わぬ危険やトラブルになりかねません。傘からしたたり落ちる水滴が周囲の人の衣服やバックをぬらし、先端の石突きが後ろを歩く人を刺す・・・・・・。なぜ「傘マナー」は改善されず、傘の迷惑行為は後を絶たないのか専門家に聞きました。
東京都消費生活部は公式サイトで、傘の危険について「駅の階段で前の人が水平に持っている傘で胸を突かれた」などの経験談を紹介。さらに、「駅の階段等で水平に持った傘は、後ろの人の顔をかすめることもあり、大変危険です。ケンカ等のトラブルに発展するケースもみられます。傘のマナーに気をつけましょう」と注意を呼びかけています。
このほかにも、傘の迷惑行為によるトラブル事例をいくつか紹介しています。
・傘を差しながら自転車で坂を下っていたら、角から車が出てきて、ブレーキがきかず車にぶつかった(19歳、女性)
・満員電車で、誰かが水平に持っていた傘が脇腹にぶつかり、肋骨にひびが入った(52歳、女性)

「スマホ見てないでちゃんと傘持って」
傘の迷惑行為については、SNSでも“被害者”から不満が噴出しています。
「電車内で傘のバンド閉じないままの人がいてかなり迷惑だった」
「ぬれた傘を電車の荷物おきに置く人なんなの?水がぽとぽと頭に落ちてくるんだけど!」
「電車でつり革につかまって、傘をひじにかけてスマホいじってるから、俺にグサグサ刺さってるんだろうが。スマホ見てないでちゃんと傘持って、周りに迷惑かけないようにせえ」
電車内で傘の迷惑行為を巡っては、傘の持ち主がスマホやゲームなどに夢中になっていて、周囲の迷惑になっていることに気づいていないという指摘も目立ちます。
傘のエレガントな持ち方を指導するなど「傘マナー」に詳しいマナー講師の片岡かこさんは、迷惑にならない傘の取り扱い方法として、六つの注意すべきポイントを挙げています。
〈1〉閉じた傘をバンドやボタンできちんとまとめる
〈2〉傘を横持ちせず、常に垂直になるように持つ
〈3〉傘を持った手を前後に大きく振らない
〈4〉水滴が飛び散らないように傘のハンドルを手でしっかりとつかむ
〈5〉駅のホームなどで傘を勢いよく開閉し雨水を振り落とさない
〈6〉傘をさしてすれ違うときは、外側へかしげてぶつからないようにする
「ジメジメとした梅雨の時期は、傘を持って出かけるだけで気が重くなるものです。その上、ぬかるんだ足元が気になったり、電車やバスが遅れたりすれば、どうしても周囲への気づかいはおろそかになってしまいます。傘の先がどこを向いているか、水滴がどこへ落ちているか、だれかに迷惑をかけていないか、そんなことを考える余裕がなくなります」と、片岡さんは雨の日の心理状態を説明します。
周囲に迷惑をかけない「傘マナー」を実践するためには、うっとうしい雨の日でも穏やかな気分を保つための事前準備が必要といいます。
・濡れても気にならない服装で出かける
・雨水が飛び散らないように傘カバーを携帯する
・ちょっと大きめのタオルを持ち歩く
「こうした事前の対策に加えて、普段より早めに家を出るようにすれば、気持ちにゆとりが生まれます」と片岡さん。「ただ、どんなに気をつけても、雨水がはねたり、傘が当たってしまったりすることはあります。周囲に迷惑をかけてしまったら、すぐに謝るなどの適切なコミュニケーションでトラブルは回避できます。どんなときでも思いやりの気持ちを持っていられるように、前もって準備や工夫をしておけば、傘マナーは上達します」とアドバイスします。
(読売新聞メディア局 鈴木幸大)