SNSで忙しく、ドラマを「倍速視聴」する若者…「鑑賞」より「消費」

映画やドラマなどを早送りしながら見る「倍速視聴」が若い世代を中心に広がっている。通常より短い時間で多くの映像を見られる反面、ジャンルによっては作品の醍醐味が薄れるなど、一長一短あるようだ。

動画投稿サイト「ユーチューブ」の倍速再生機能を表示したスマホの画面
動画投稿サイト「ユーチューブ」にも倍速再生機能がある

標準は疲れる飽きる

「見たい作品がたくさんあり、標準速度だと時間がかかるので疲れるし、飽きる。倍速なら通勤や入浴中の合間に見られて、効率が良い」

横浜市の女性会社員(24)は、「ネットフリックス」などの動画配信サービスでアニメやドラマ、バラエティーを主に1.5倍の速さで楽しむ。勤め先で広報を担当しており、「内容は深く理解できなくても、世間が気になる話題を網羅したい」と、ニュースも倍速で確認する。人物の動きや声色がやや不自然になるため、じっくり見たいファンタジーやアクション系の映画は標準で鑑賞するという。

市場調査会社「クロス・マーケティング」が昨年3月、全国の20~60代の男女計1100人に行った調査では、動画を倍速視聴した経験がある人は20代で約半数に上り、60代でも20%台に達した。

倍速視聴の経験がある人の割合。2021年の調査結果

「見放題」で安価に

なぜ倍速視聴が広がっているのか。「映画を早送りでる人たち」(光文社新書)などの著書があるライターの稲田豊史さんは、動画配信サービスで安価に視聴できる作品数が急増したことを理由に挙げる。

これらに加えて、LINEやインスタグラムなどのSNSもチェックしなければならず、時間がいくらあっても足りない。でも、最新の話題にも取り残されたくはない。タイムパフォーマンス(時間対効果)を求めて、倍速視聴をすると指摘する。

「鑑賞」せず「消費」

退屈なシーンは飛ばしたり、他の作業をしながら見たり。稲田さんは、視聴方法はあくまで個々の自由とした上で、「作品を『鑑賞』せず、欲求のまま『消費』する習慣は疑問だ」と異を唱える。

「ウルトラマンマックス」やアニメ「サザエさん」などのシナリオを手がけた脚本家の小林雄次さん(42)も現状に不安を感じている。

主人公がピンチに追い詰められた末に勝利するから感動が大きくなるように、脚本家は視聴者をひきつけるため、ストーリーに緩急をつける。ところが、暗い話は「停滞」、沈黙シーンは「無意味」と捉えられる――。そんな風潮を危惧しているという。小林さんは、「映像作品は『時間の芸術』とも言う。見たいところだけを見ると、作者の意図が伝わらない」と複雑な心境を明かす。

細かい情報見落とす

倍速視聴によってコミュニケーション能力の低下を招く可能性もある。

玉川大脳科学研究所教授の松田哲也さん(認知神経科学)によると、人は作品の登場人物のやり取りから、実生活に役立つ対人スキルなどを学ぶという。例えば、「いいよ」など同意の返事一つとっても、相手の返答までの間や目線の動き、頬のこわばりなど、様々な情報から同意の程度を読み取ろうとする。倍速だと細かい情報を見落としてしまい、推察力などを習得する機会を無意識のうちに失うそうだ。

松田さんは、「倍速視聴は効率的だが、得られる情報量は減り、感情移入しにくくなる場合がある。その功罪を理解して使うことが大切だ」と助言する。(読売新聞生活部 伊丹理雄)

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