「現実を生きるリカちゃん」をSNSで発信…ずぼらな姿になぜ共感が集まるのか?

ずぼらな格好や画像加工しない自撮り写真など、あえて飾らない姿を伝えるSNS投稿が広がっている。「リア充(生活が充実していること)アピール」への疲れも背景にあるようだ。

素の自分をリカちゃんで表現

関東地方に住む20代後半の会社員女性は、インスタグラムやユーチューブに、リカちゃん人形を使って自身の日常を再現し、「現実を生きるリカちゃん」と題して投稿している。

真面目に会社で働く設定だが、スマートフォンのアラームを何度止めても起きられない。玄関にビニール傘がたまって靴が散乱する、仕事に疲れてソファに倒れ込む――。ずぼらな一面を持つリカちゃんはクスッと笑えるが、愛らしい。

女性は「素の自分をリカちゃんで表現しています。自分の姿を出すのは気がひけるので」と語る。ミニチュアの部屋を作り、自宅で撮影する。「作品を眺めていると、けなげさを感じる。『毎日頑張ってるね』と自分をいたわる気持ちがわいてくる」とほほ笑む。

2020年春から投稿を始め、インスタグラムのフォロワーは98万人を超える。露骨すぎずに現実や内面が表現され、「私も同じ」「リカちゃんの姿に救われた」など共感を呼ぶ。女性は「キラキラしたリア充なSNSは苦手だった。私の投稿で元気になってもらえるのはうれしい」と語る。

作者の女性は「財布などの小物は手作りすることも多いです」と話す

SNS事情に詳しい「電通メディアイノベーションラボ」主任研究員の天野彬さんによると、これまでは「映える」(見栄えが良い)、「盛る」(実物より良く見せる)加工をした写真などのSNS投稿が多かった。

しかし、コロナ禍以降、飾らない自分らしさを伝える投稿が目立ち始めた。天野さんは「投稿者も見る側もリア充アピールに疲れてきた。特に若い世代は外出や交流が制限される中、『エモい』(心に響く)、『チルい』(心身がリラックスした状態)ことを大切にしている」と分析する。

野村総合研究所が21年末、15~69歳の約3000人に行った調査では、15~25歳の半数が「SNS疲れ」を感じていた。「友達やフォロワーの投稿を自分と比べてしまう」などの声があった。

東京都内の大学生、小暮悠さん(21)は「以前は自分の顔をかわいく加工してSNSに投稿したが、自分を良く見せようとしている、と思われるのが嫌でやめた。今は、友達との楽しい雰囲気の動画などを加工せずに投稿する」と話す。

リカちゃんで心の内面を表現、心のバランスを取る…香山リカさん

「現実を生きるリカちゃん」が共感を呼んでいる現状について、精神科医でペンネームが同姓同名の香山リカさんに聞きました。

精神科医の香山リカさん(提供写真)
精神科医の香山リカさん(提供写真)

私の子どもの頃のリカちゃんは洋風な生活を送り、お父さんも優しくてかっこいい。かわいい洋服を着て、ステキな生活を送る存在で、多くの女の子たちの憧れでした。
リカちゃん人形の発売から50年が過ぎ、洋風スタイルな生活が浸透し、ファストファッションが流行するなど、かわいい洋服も手に入りやすくなりました。時代の変化とともに、リカちゃん人形で表現する思いも変わってきた部分があるのではないでしょうか。

SNSで「現実を生きるリカちゃん」が注目を浴びているようです。言葉で表現しにくい心の中の思いを、人形や絵などなら表現できることがあります。会社ではきちんとしていて、「いつも元気ですね」などと周囲から評価されている。その評価はうれしいけれど、「それだけじゃないずぼらな自分がいる」という思いがある。リカちゃん人形で内面を表現することで、リアルすぎず、ユーモアもある。共感もできる。自己嫌悪に陥ることなく、心のバランスが取れるのではないかと思います。

大人がリカちゃん人形の力を借りることは悪いことではありません。素の自分を再現したリカちゃん人形を見て、作者も、見た人も、クスッと笑ってガス抜きできるなら健全でしょう。
ただ、大人がリカちゃん人形の力を借りるくらい、今はしんどい社会である、とも読み取れます。その点が、心配でもあります。

【写真】横着して足で冷蔵庫の扉を閉める…「現実を生きるリカちゃん」の姿3選

ずぼらなリカちゃんの写真に励まされる気持ちはよく分かる。でも、飾らない自分を発信するのも勇気がいる。SNSは「見る専門」の生活が続きそうだ。(読売新聞生活部 矢子奈穂)

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