20代が明るい「平成Jポップ」をスルーして中森明菜を愛する理由

昭和に流行した曲が時代を超えて若者の心をつかんでいる。なぜ当時を知らない世代が夢中になるのだろう。平成生まれの記者(29)がその魅力を探った。

中森明菜さんの「十戒(1984)」に心奪われる

埼玉県在住のウェブデザイナーの女性(29)は、「あなたの知らない昭和ポップスの世界」というサイトを「さにー」の愛称で運営している。1970~80年代のヒット曲などの情報を年表にまとめて紹介し、岩崎宏美さんら歌手などへのインタビュー記事も公開して、魅力を発信する。

さにーさんは21歳の頃、ユーチューブで中森明菜さんの「十戒(1984)」を見て、訴えかけるまなざしに心を奪われた。集めたレコードは約500枚に上る。情報収集に苦労した経験から2019年、若者向けにサイトを開設した。

「昭和の曲は聴きながら情景が頭に浮かんでくる」と魅力を語るさにーさん(昭和歌謡BAR ヤングマンで)
「昭和の曲は聴きながら情景が頭に浮かんでくる」と魅力を語るさにーさん(昭和歌謡BAR ヤングマンで)

色々な解釈ができる行間を読む歌詞に趣を感じるといい、例えばペドロ&カプリシャスの「ジョニィへの伝言」は、ジョニィに本当は何を伝えたいのか、聞く人によって解釈が分かれるという。「誰でも好きな歌手や曲を見つけられる奥深さがある。世代じゃないからこそ、時代背景と切り離して曲そのものにひかれる」と熱っぽく語る。

エイベックス通信放送が1月、全国の30代以上の男女395人に行った調査では、30代の85%が「昭和の曲を好んで聞く」と回答。魅力を尋ねる項目で「世代を超えて楽しめる」と答えた割合が30代で最も高く、コミュニケーションの手段にもなるようだ。

東京・新宿の「昭和歌謡BAR ヤングマン」店長の引木和美さん(52)によると、年配者に連れられることの多かった若者が、最近は1、2人で来る姿が見られるという。店では客同士で盛り上がることもあり、引木さんは「年齢に関係なく、心を一つにして楽しめる」と声を弾ませる。

昭和の曲好きの若者約30人が集う「平成生まれによる昭和ポップス倶楽部くらぶ」では、「アイドル検証」といったテーマを決めてオンラインで語り合うなどして楽しむ。代表の松永かなえさん(24)は「人から薦められてはまる曲もある。共有すると新しい発見があってうれしい」と話す。

流行の背景にサブスク

なぜ昭和の曲は若者を魅了するのか。「平成Jポップと令和歌謡」(彩流社)などの著書がある音楽評論家のスージー鈴木さんは、「サブスクリプション(定額制配信)が普及し、気軽に昭和の曲を振り返れるようになったのが大きい」と説明する。

当時は専業の作詞家と作曲家が手がけた曲を、歌唱力のある歌手が歌うことで、誰もが知る名曲が次々と生まれた。情景が浮かぶような歌詞や耳に残るイントロは、「過剰なまでに大衆性を意識した時代」(鈴木さん)のたまものだ。シンガー・ソングライターが増え、音楽ジャンルも細分化した現代においても、その完成度の高さから「新旧関係なく、サブスクで良いと感じてひかれる若者が多いのでは」と指摘する。

さらに、昭和の曲が現代の若い歌手にも影響を与えているというのが鈴木さんの持論だ。「令和歌謡」と名付けたジャンルでは、昭和に流行した暗い曲調を取り込むなどの共通点が見られるという。

代表的な歌手が米津玄師さんや藤井風さんら。「(米津さんの)『Lemon』は『夢ならば』で始まる陰鬱いんうつな響きが印象的。KANさんの『愛は勝つ』のような前向きで明るい曲調が流行した平成Jポップの反動ではないか」と鈴木さん。「コロナ禍といった閉塞へいそく感の漂う時代背景とも関係があるだろう」と分析する。

昭和の曲、今より歌詞の文字数が少ない…ゆったりと感情を込めて歌う

昭和の曲をうまく歌うコツを、歌手でボイストレーナーのフェルナンデス由布子さんに教えてもらった。

1970~80年代の曲は2020年頃と比べ、曲中の音が全体的に低めで、歌詞の文字数が少ない。構成もシンプルだけに、リズミカルに歌うよりも、ゆったりと感情を込めて歌う表現力が求められるという。

へそより約10センチ下の下腹部を意識し、ぶれずに安定した声を出し続けられるのが基本となる。手軽なトレーニングとして、寝転がって脚を45度程度上げた状態で歌うのを勧める。

「脚を上げながら歌うと、発声に重要な下腹部が鍛えられる」と話す歌手でボイストレーナーのフェルナンデス由布子さん
「脚を上げながら歌うと、発声に重要な下腹部が鍛えられる」と話すフェルナンデスさん

声を通りやすくするには顔の表情筋も重要だが、マスクの着用で衰えがちなため、上の歯が見えるまで口角を上げる動作を繰り返すといいという。ハミングも効果的だ。

「口角を上げて表情筋を鍛えると、声が通りやすくなる」と話す歌手でボイストレーナーのフェルナンデス由布子さん
「口角を上げて表情筋を鍛えると、声が通りやすくなる」

フェルナンデスさんは「昭和の曲は声の質が高くないとうまく歌えない。自分の声の良さを磨いて、自分らしい表現で歌うのを楽しんでほしい」と話している。

記者の父は80年代に活躍したシンガー・ソングライター。父の曲を聴くと「今とは時代が違うな」と抱いていた隔絶の思いは、取材で松田聖子さんらが歌う名曲と出会ううちに感嘆のため息に変わっていた。(読売新聞生活部 伊丹理雄)

Keywords 関連キーワードから探す