デザイナー・桂由美…仕事一筋 トイプー「ココ」が彩り

振り返ると仕事に生きてきた人生でした。そんな私から仕事を奪ったのが新型コロナウイルスです。結婚式は軒並み延期になり、イベントも中止され、新作を発表していたパリやニューヨークにも渡航できなくなりました。

仕事が減り、自宅にこもりがちになっていた私に声をかけてくれたのが、美容家・山野愛子ジェーンさん。「犬を飼ったらどう? 慰めてくれるわよ」と勧めてくれ、2020年春、山野さんの飼い犬の親戚にあたるオスのトイプードルを飼うことにしました。

桂由美さん
「うちに来たときはあんなに小さかったのに。成長を見るとうれしいですね」(東京都内で) 今利幸撮影

尊敬するデザイナーのココ・シャネルにちなみ「CoCo(ココ)」と名付けました。その年の1月に生まれたばかりの子犬で、純粋な目をしていて、すっかりとりこになりました。主人を亡くし、子どもがいない私にとって新しい家族ができました。

しかし、これまで犬を飼ったことがありません。去勢やワクチン接種なども知りませんでした。パリやニューヨークへの出張があり、東京以外に大阪にも出店しています。こんな状況では犬を飼っても面倒をみれません。頭の中は仕事のことばかり。忙しかったのですが、充実していたので、正直、何かに癒やしを求めるということは、あまり考えていませんでした。

そんな私でしたが、ココを見ていると自然に笑みがこぼれます。自宅で仕事をしている時、ココは私の邪魔をしないように思っているのか、おとなしく寝ています。電話をかけていると、そばに寄ってきて私の手をかじってくることがあります。「早く電話を切って遊んでよ」と言っているのかもしれません。

甘えん坊な一面もあるんだなと思うのですが、最近はかじらなくなった。私が遊んでくれないと思ったのかもしれません。ご飯の前に、「ワンツースリー」のかけ声に合わせて物を投げるとジャンプしてくわえる。これぐらいしか遊びを知らないので、他の遊びも覚えないといけませんね。

私も毎朝、ココを連れて30~40分ぐらい近所を散歩します。日の出が早い夏には午前5時頃出発します。そんな早くに散歩をするのは、ココが他の犬と一緒に散歩している人を見かけると、飛びつかんばかりに駆け出すからです。人なつこくてかわいいのですが、迷惑になるのではと思って人が少ない時間に散歩します。

以前はリードにつないで歩いていましたが、最近は成長とともに力が強くなったので引っ張られると転びそうになります。犬用のカートをいただいたので、それにココを乗せて散歩します。ココと一緒に一日のスタートを切るのはとても気持ちがいい。

月、水、金曜はドッグトレーナーの方が訓練をしてくれるのでココも楽しく過ごしているでしょう。木曜はシャンプーに行きます。私にココを紹介してくれたジェーンさんの自宅で預かってもらうことも。ジェーンさんのお宅には、同じトイプードルのメスがいて一緒に遊んでくれています。ココが楽しく過ごせるように、私が出来ることを考えていきたいですね。

愛犬ドレス 予期せぬ注文

桂由美さん
「撮影の日はココ(中央)の2歳の誕生日でした。お友達と一緒にお祝いできてうれしそう」(東京都内で) 今利幸撮影

ココと一緒に暮らすようになって、まもなく2年になります。

これまでペットを飼う余裕がなく、日本にブライダル文化を根付かせようと国内外を飛び回ってきました。結婚という人生の一大イベントを晴れやかに迎えてもらいたいと心を込めてウェディングドレスをデザインしてきました。当然、お客様は人間です。

しかし、2020年、57年間活動してきて初めて犬用のドレスをデザインする機会に恵まれました。ココを飼い始めてすぐの頃でした。

その年に東京で開かれる予定だった動物とのふれあいを楽しむイベントの企画で、犬のファッションコンテストがありました。私が特別審査委員長を務めることになり、参加する犬を募集するチラシを制作しました。小さなトイプードルを抱いて撮影したのですが、飼い主さんから、誕生日のためのドレスを作ってほしいと依頼されました。

ちょうど、新型コロナウイルスの感染が広がりをみせていて、ドレスを縫製する人たちも仕事が減ってきたので余裕があります。経験はありませんが、期待に応えたいと頑張りました。

しつけが出来ていたので、サイズは難なく測れました。デザインで注意したのは人との違い。犬は耳の大きさが目立ちます。その分、人間に比べてドレスの面積が小さく見えるので、生地に装飾を施して華やかに見せるようにしました。ウェディングドレスは脚が隠れるぐらいの長い裾がエレガントなのですが、犬には邪魔なので裾を引きずらないような工夫もしました。

ドレスが完成した頃、黒柳徹子さんが司会を務めるトーク番組「徹子の部屋」に出演し、ドレスの写真も披露しました。すると、東京や大阪から数十着の注文が入りました。オスのためにえんび服もデザインしました。私がデザインするのだから普段着ではなく、晴れの日に着せられる服です。どの犬も本当にかわいがられているんだなと感じました。

もちろん、ココにはたくさんの愛情を注いでいます。でも、服を作ったことはありません。着せようとしたことがあるのですが、迷惑そうにするので、特別な時に、ちょうネクタイを付けてあげます。それに、ココは服が似合わないと思っています。

2歳の誕生日には、ココを紹介してくれた美容家の山野愛子ジェーンさんらが愛犬を連れてきてくれて、一緒にココを祝ってくれました。特製のケーキを囲んで写真を撮りましたが、その時のおめかしも冠と黒のちょうネクタイだけ。ふわふわの真っ白い毛とネクタイの黒というモノトーンの組み合わせがおしゃれでした。

でも、本当のところはどうなのでしょうか。実は服を着てみたいのか、私が思っているように着たくないのか。ココの考えていることが分かるといいなと思っています。

自慢のポーズ 見せたい

「お気に入りのおもちゃを見せるとうれしそうに立ってポーズを見せてくれます」(東京都内で) 今利幸撮影

夫を亡くし、子どもがいない私にとってココはかけがえのない家族です。大切にかわいがっているのですが、「そばにおいで」と声をかけても思うようにはいきません。

月曜はお手伝いさんが自宅の掃除に来てくれるのですが、邪魔にならないようにケージに入れます。すると、「出して、出して」とばかりに鳴き出します。それに、私には聞こえないのですが、遠くで犬の鳴き声が聞こえているような時は、大きな声で呼応します。マンションなので、他の住人に迷惑にならないか、そわそわしてしまいます。

週に何日か会社に行くことがあるのですが、大きな声で鳴くココだけを自宅に置いておけません。社内の扉に「ココが在室中につき、扉を閉めてください」と貼り紙までしたのですが、うっかり開けたままにしていた隙に、ココがエレベーターに乗り込んで1階まで降りてしまったこともあります。外に出る前にスタッフが気付いてくれたので良かったのですが、何かと心配は尽きません。

人生初のペットは、かわいいだけではないことを痛感しています。昨年末、散歩を終えてマンションに戻り、ココを抱いてエントランスから自室前に到着した時に、早く降りたいココが急に動いて、驚いた私は転んでしまいました。あばら骨と歯が折れたのですが、特に歯の治療には結構大きな額の費用がかかりました。

それでも、ココを見ていると、 愛嬌あいきょう のある行動に目を細めてしまいます。

自宅に来客を告げるチャイムが鳴った時です。マンションですからエントランスと自室の玄関と2度鳴ります。1度目で「誰か来たよ」とココは起き上がってしっぽを振りだします。スリッパを履いたり、上着を着たりと支度をするのですが、それが遅いと、「早くしなさい」とばかりに私の周囲を回ります。2度目のチャイムが鳴り、玄関のドアを開けた時には、ココもそばに座ってお出迎えをしています。

来客が、ココを紹介してくれた美容家の山野愛子ジェーンさんだと分かると、うれしさを爆発させて飛びついています。ジェーンさんが「ココはお利口さんね」と褒めてくれるのを聞くと、「ココは私にはそこまでしないのに」と思いつつもうれしいですよね。

ココは最近、後ろ脚で立って前脚を挙げるポーズを覚えて、自慢の特技になりました。会社でもお客様を上手にお出迎えできたらと思います。コロナが落ち着いたら、取引先の方にも見てもらいたいですね。

ココと暮らすようになり生活に張りが生まれたように感じます。仕事がうまくいかない時、私を見つめているココの表情は、「そんなに気を落とさないでよ」と励ましてくれているように思えるのです。少しでも一緒にいられるように、ココも私も元気でいたいですね。

(このコラムは、読売新聞で3月、4月に掲載されたものをまとめて再掲載しています。)

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桂 由美(かつら・ゆみ)
ブライダルファッションデザイナー
1930年、東京都生まれ。共立女子大家政学部卒業後、パリに留学。65年、日本初のブライダルのショーを開催。これまでに世界30以上の都市でショーを開き、有名人の婚礼衣装も数多く手がける。2019年度の文化庁長官表彰を受ける。
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