この記事のネタバレ
・ネタバレで続きへの興味を失い、制作者の損失になる
・視聴、購入の判断に活用も
楽しみにしていた映画や漫画の結末を、予期せずインターネットやSNSで見てしまいがっかり――。そんな経験はないだろうか。検索で何でも情報を得られる時代に、「ネタバレ」との付き合い方を考えてみた。
「後から見る方々のため、秘密を口外しないようお願いいたします」――。昨年9月、英映画「ラストナイト・イン・ソーホー」が初公開された際、監督のエドガー・ライトさんは自身のツイッターにこう投稿した。映画は謎解き要素を含むサスペンスで、先に見た観客に、ネタバレ禁止をお願いした格好だ。

映画に限らず、小説や漫画、ドラマなど様々な分野で、いまや公開や発売と同時にネット上に感想が書き込まれる。結末を含むあらすじを詳述している例もある。具体的にどんな問題があるのだろう?
続きへの興味喪失…4割
「ネタバレされると、結末まで一喜一憂する度合いや続きに関心を持つ度合いが下がり、途中で(購読や観賞を)やめる率が高まる。制作側の損失になりかねない」。ネタバレの防止を研究する明治大専任教授(情報学)の中村聡史さんは分析する。
中村さんが行った実験では、漫画の途中でネタバレされた被験者の約4割が続きへの興味を失い、ネタバレなしで読んだ場合の2倍に上ったという。
ネタバレを防ぐサービスやシステムの開発も進む。IT企業「信興テクノミスト」(東京)が提供する「ふせったー」は、ツイッターに投稿する際、ネタバレにつながりそうな単語や文字を伏せ字にできる。投稿をクリックすると全文を読める仕組みで、月300万~400万人が利用する。「感想を共有したいという思いと、他人の楽しみを奪いたくないという配慮を両立できる」と担当者は話す。(※「ふせったー」の画像は記事の最後に掲載)
立命館大教授(ウェブ情報学)の西原陽子さんが開発し、実用化を目指すシステムでは、漫画のキャラクターの登場回数を巻数ごとに集計し、グラフ化。特定の人物の登場頻度の推移で、ストーリーの流れを判断できるようにした。一度読んだことがある人が、もう一度読みたいエピソードなどを検索するときに役立つ。「見た目はグラフなので、読んだことがない人へのネタバレにならない」と西原さん。
内容見た上で選別
一方、あえてネタバレを見たい人もいる。調査会社「ジェムパートナーズ」(東京)が昨年、15~69歳の男女4126人に行った調査で、「映画はネタバレ含めて内容を知った上で、映画館で見るかどうかを決めたい」と回答したのは19%。年代別では15~19歳女性が23%、20代は男女とも22%と若年層でやや高い。
大学生や新社会人などの「Z世代」は、生まれた頃からネットやSNSが身近にあり、未知の物事の検索は当然の行動だ。この世代の消費行動に詳しい博報堂の牧島夢加さん(26)は「動画配信サービスでは次々とお薦め作品が出てくる。選択に失敗したくないのがZ世代で、何事もネタバレを見た上で厳選する傾向がある」と指摘する。
投稿サイト「note」では、作家自らが本の内容をあえて無料で全文公開する動きもある。読み手は、内容を把握した上で本を買うかどうか判断できる。書き手はネットで拡散してもらえ、読者の反応をすぐに受け取れる。 noteエンタメ担当ディレクターの荒木俊雅さんは「ネタバレは今や演出方法の一つ。どの程度ネタバレするか線引きを考えるなど、制作側の情報コントロール能力も問われる時代だ」と語る。
違法性を問える?
ネット上にネタバレを書き込むことは、著作権法に触れないのか。弁護士の甲本晃啓さんは「映画や漫画のストーリーそのものは、著作権の対象にならず、ネタバレ自体は違法ではない」と説明する。
具体的なセリフや漫画の画像は著作物だ。だが、「感想を述べる上で触れざるを得ないならば、著作権法上の『引用』にあたると解釈でき、違法ではない」と甲本さん。ただし、程度にもよるという。
著作権以外も注意が必要だ。例えば、小説の詳細なあらすじを全て自分の言葉で書いた場合、甲本さんは「独自の表現・文体なら著作権法には触れないが、その小説を買って読もうとする人は減るかもしれず、制作者の営業権侵害に当たるだろう」と話す。(読売新聞生活部 福元理央)
「ふせったー」の画像