東日本大震災から11年。大切な人を突然失った人々の悲しみと戸惑い、新たな一歩を描いた作品群にまた、見るべき1本が加わった。監督・脚本の中川龍太郎は32歳。若い映画人が、震災を忘れていないことに安心する。
運命的に出会い、親友になった真奈(岸井ゆきの)とすみれ(浜辺美波)。しかし、すみれは一人旅に出たまま行方不明に。それから5年。死を受け入れられない真奈は、すみれが最後に旅をした場所へ向かう。
中川監督の特徴の、叙情的な映像と繊細な感情表現で、2人の12年にわたる物語がつづられる。コンパでの不意をつくキス、雨の夜にそっとつないだ手――。女性同士のラブストーリーの匂いを漂わせながら、今をときめく女優の競演で。話題性は十分だが、若者向けのデートムービーか、というと少し違う気がする。

原作は被災経験のある彩瀬まるの小説。映画は原作にはない東北のシーンを入れている。時に空撮で捉える海の表情、強調した波の音が、2人の思い出の場所であり、永遠の別れの原因となった海の美しさ、怖さを表現する。生命をはぐくむその豊かさも。
冒頭の意表をつくアニメーションも、最後に予想を上回る効果を上げる。小瀬村晶の音楽が、泣かせることを重視したそれとは一線を画し、格調を高めている。現在と回想を交錯させた構成を含め、映画ファンが、語りたくなる作品になっている。
(読売新聞文化部 田中誠)
やがて海へと届く(ひかりTV、WITSTUDIOほか) 2時間6分。TOHOシネマズ日比谷など。公開中。
◇ ◇ ◇
読売新聞文化部の映画担当記者が、国内外の新作映画の見どころを紹介します。
読売新聞オンライン「エンタメ・文化」コーナーはこちら
あわせて読みたい
OTEKOMACHI(大手小町)は働く女性を応援するサイト。キャリアやライフスタイルに関する情報が満載です!