ドイツの「おうちツアー」とは?「見せない収納」の延長線上

先日、ある日本人女性に「ドイツ人のお宅はなぜモデルルームのようにきれいなのですか?」と聞かれました。確かにドイツ人のお宅にお邪魔すると、「モデルルーム並み」にきれいなお宅が多いのです。今回は、整理整頓を含む「家事」にスポットを当てながら、海外と日本の「住宅」に対する考え方の違いにスポットを当てたいと思います。

ドイツ人の「部屋案内」

ドイツでは、家に招いたお客さんに家の中の全ての部屋を案内するのが一般的です。リビングに案内した後は、「こちらがゲストルームです。こちらが子供部屋で、こちらが書斎、こちらが寝室です」などと案内するのです。そして冒頭の日本人女性が言っていたように、それらの全ての部屋が本当にきれいなことが多いです。

このドイツ人の「おうちツアー」について、日本人は「ずいぶんとオープンなんだな」とか「もしかしたらお家が自慢なのかな」という印象を持つようです。しかしこれは、家に招いた人へのあいさつのようなものであり、ドイツの習慣ですので、必ずしも住人が自慢したいわけではありません。とはいえ、この習慣があるため、基本的に「いつ人が来ても良い住まいにしている人」が多いのは確かです。

そういえば、筆者の日本人の女友達は、「人を家に招く予定があると、事前に掃除を念入りにするようになるから、家がきれいになる。人を招いて楽しいのもあるけど、家をきれいに保つためにも、人を呼ぶのは効果的」と笑いながら話していました。ある意味、一石二鳥かもしれません。

ウクライナから逃げてきた人たちを自宅に泊める

2月24日、ロシアはウクライナで軍事侵攻を開始しました。ウクライナに住む多くの人々がポーランドをはじめ、ルーマニア、ハンガリー、モルドバ、スロバキアといった隣国に逃げています。逃げ惑う人の少しでも助けになろうと、各国で多くの民間人が自宅に難民を泊めています。例えばポーランドでは、ロシアが軍事侵攻を開始してすぐ、多くのボランティアがウクライナとの国境にかけつけ、難民を温かい料理でもてなしたり、移動のサポートをしたりするなかで、面識のない難民を家に泊めるポーランド人のことも現地のラジオが紹介していました。

BBCによると、ドイツでも似たような対応が見られました。ドイツ・ベルリンの中央駅では、到着するウクライナ難民に対して、ベルリンの人が「滞在可能な期間」や「自宅に何人泊めることが可能か」などの詳細を書いたプラカードを挙げているのです。

筆者の出身であるミュンヘンでも、自宅の部屋を難民のために提供する民間人のことが、メディアで多数、記事になっています。なかには「こういう部屋です」と部屋を公開している人もいます。

こういった行動は、「難民の力になりたい」という人助けの心からのもののですが、そうはいっても、人を自宅に上げることが元々苦手な人の場合、簡単にはできないでしょう。人を自宅に招くことが一般的だからこそ、成り立つものだと思います。

「家事の優先順位」と「見せない収納」

人を家に招くとなると、気になるのはやっぱり「掃除」です。ドイツでは家事の中でも掃除の優先順位が高いです。日本では、家事や子育ての話になった時に、「冷凍食品を子供に与えるのはいかがなものか」という話になるなど、「料理」(つまり手作り)を大事にしていることがうかがえますが、ドイツの場合は「あそこの家は整理整頓が行き届いていない」など、整理整頓や掃除のことが話題に上がることが何かと多いのです。極端な例では、「台所が汚れるのが嫌だから、料理はしない」という人までいるほどです。

掃除のなかでも「窓磨き」は特に重要です。かつて「完璧な主婦」といえば、「家の窓ガラスをピカピカに磨く」主婦でした。いかにピカピカに磨けるかが、主婦の腕の見せどころだったわけです。

働く女性が多い今、さすがにこのような文化は薄れつつありますが、窓ガラスにこだわる人はまだまだ多く、アウトソーシングして磨いてもらう人もいます。

すっきりした部屋
写真はイメージです

整理整頓について、ドイツでは「見せない収納」が基本です。ゴチャゴチャして見えるものは、すべてドアのついている棚や地下室に収納してしまうことが多いです。自宅だけでなく、オフィスや学校の職員室なども、紙類がそのまま置かれていることはあまりなく、統一されたサイズと色のファイルに全ての紙類を入れます。そのため、見た目はかなりスッキリしています。

ドイツでは一軒家はもちろん、集合住宅にも地下室がついていることが多く、ここにスキー板やスノボ用品など、毎日使わない物を収納するのが一般的です。空気が乾燥しているので、地下室であってもカビの心配はあまりありません。

日本の住宅の場合、地下室があること自体が珍しく、住宅事情の問題から、収納スペースも限られています。そうした中でも、やはりスッキリした暮らしがしたいと考える人が多いようで、最近、街中で「トランクルーム」をよく見かけます。筆者は都心住まいですが、物が多いので、実はトランクルームを二つも借りています。季節に関係なく室内の温度が一定に保たれているため、カビの心配がなく、資料など紙類から衣服まで安心して保管できます。

住宅事情の違いが関係しているのか、先日とても考えさせられるエピソードがありました。小さな子供のいるドイツ人男性から「妻がだらしない」と、携帯電話で撮った部屋の写真を見せられました。

確かに子供の玩具が散乱し、洗濯物が干しっ放しになっていましたが、筆者の感覚(日本の感覚)だと、「小さな子供のいる家庭だと、そんなものかもしれないな」と思いましたし、特に「ひどい部屋」だとは感じませんでした。しかし、洗濯物はベランダや室内の目立たない場所に干し、物は必ず人目につかないところに収納する、整然とした環境で育ったそのドイツ人男性にとっては、「玩具の散乱」も「部屋干し」も「耐えられないほど雑然したもの」だったようなのです。「感覚の違い」は時に、人間関係(夫婦)に影響を及ぼすのだなと再認識させられました。

何はともあれ、人の住まいを見ると、その人の「こだわり」や「センス」、そして「何を大事にしているか」といったことが分かる部分はあると思います。筆者自身は、お世辞にも几帳面きちょうめんとは言えない性格ですので、残念ながら「ドイツ流のキッチリ」を実施できていませんが、長引くコロナ禍の中で、前よりは家のことに気を配るようになり、ここ1年ほどは人を家に招くことも多くなりました。

難民を招き入れることも、日常の整理整頓やお客を家に招く延長にあるのかもしれません。日本は災害も多いですから、いざというときのために、そして日々の暮らしを楽しむために、家の「スッキリ」をこころがけたいものです。

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住23年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)、「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)。


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