不妊治療の保険適用拡大で何が変わる? 妊活で考えたいこと

今年4月から体外受精などの不妊治療が公的医療保険の適用対象になります。子どもがほしいカップルの経済的負担を軽減する国の少子化対策として期待されていますが、いったい何が変わるのでしょうか。専門医にこれからの妊活で考えたいことを聞きました。

一般的な不妊治療には、医師が妊娠しやすい時期を指導する「タイミング法」、排卵の時期に合わせて精液を子宮内に注入する「人工授精」があります。このほかに、生殖補助医療として、卵子と精子を体外に取り出して受精させる「体外受精」、「体外受精」の一種で、精子を直接卵子に注入する「顕微授精」などがあります。

3月16日に厚生労働省はホームページ上で、「体外受精などの基本治療は全て保険適用されます」とするリーフレットを発表しました。それによると、「タイミング法」「人工授精」「体外受精」「顕微授精」とその過程に生じる「採卵・採精」「受精・胚培養」「胚移植」なども保険適用の対象とされています。

基本治療には何が含まれる?

「体外受精」が保険診療の対象となるのは、今回が初めてです。ただし、治療開始時の女性の年齢制限や回数制限が付きました。これまでの国の助成金制度と同じで、43歳未満であること、40歳未満では通算6回、40歳以上43歳未満では通算3回(どちらも、子ども1人ごとに)という要件です。

保険適用に伴って患者負担は原則3割になり、1か月の自己負担に上限を設ける高額療養費制度が使えるようになります。不妊治療の手術1回あたり最大30万円だった国の助成金制度はなくなりますが、治療を続けている人を対象とした経過措置も設けているそうです。

赤いハート形を持つカップル
写真はイメージです

大阪市や東京都で不妊治療クリニックを展開する医療法人オーク会(大阪市)の田口早桐医師に不妊治療の保険適用について聞いてみました。

「若い年齢で不妊の原因がはっきりしている方が、早くに治療を始められるという意味では、不妊治療に保険が使えるメリットは非常に大きいと思います。それに、体外受精が“標準的な医療”として認められたこと自体、隔世の感がありますね」と田口さんは話します。

しかし、その一方で、不妊治療の現場では、患者さん一人一人の状態に合わせて、最新の生殖医療技術を追い求めるテーラーメイド治療が進められています。43歳という女性の年齢制限も現場の感覚では若すぎると感じるそうです。

田口さんは「成果が上がらないカップルの場合、保険で認める標準的な治療だけで終えることができるのか、という問題はあります。今回の診療報酬改定では、先進医療として申請が認められれば、保険診療に加える形で行えるということですので、うちのクリニックでも、申請していく方針ですが、それが認められないこともあるでしょう。その場合、非常に心苦しいのですが、保険診療の枠組みにとどまるか、それともそれ以上のことを望んで高額な自費診療になってしまうのか、結局、患者さんに二択を迫ることになるのかもしれません」と指摘します。

夫婦・カップル間の温度差も

実は、田口さん自身、不妊に悩み、体外受精で子どもを授かった経験があります。生殖医療専門医として、妊活をポジティブに乗り切るために知っておきたいポイントをまとめた「ポジティブ妊活7つのルール」の著書があります。「自分で動く、自分を信じる」など、妊活を始める際の心構えを表したものです。

これまでの受診例では、「1人目の妊娠のときも、1年半ぐらいかかったから、2人目は3年ぐらい妊娠までにかかるのでは……」と相談してきた女性が、体外受精で2人目をほどなく授かったこともあったそうです。「体外受精の成功率は、施設によってもかなり差があります。例外を省いて分母を調整すれば、見た目の確率は全然違ってしまうので。そういう情報や確率論に振り回されず、のんびり構えて相談することも大切です」と田口さんは話します。

働く女性にとって、不妊治療は仕事を続けるうえでの関門となることも。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」にも、不妊治療のため正社員の仕事を辞めざるを得なかった33歳の女性から「不妊からの流産、もう離婚するしかないのでしょうか…」という投稿が寄せられました。5年間の治療の末、体外受精で授かった子を8週目で流産してしまったばかり。夫からもう1回体外受精をしてほしいと言われたことがショックで、「無理です。もうあの注射、投薬の日々、採卵、胚移植を今の私に出来るとは思えません……」と、自分の気持ちをつづります。

田口さんは「きっとご夫婦の間で温度差があったのでしょう。不妊治療に100%はありません。どんなに願っても、お子さんに恵まれないカップルがいるのも事実です。努力すればうまくいく、というものでもありません。つらい気持ちを一人で抱え込まずに、パートナーや友人など、自分の心や体の状態を率直に話していきましょう。意見は違ってもいたわり合うことができれば、解決の糸口になるのでは」とアドバイスします。

制度が大きく変わる春だからこそ、身近なレベルで話をしておくことが大切かもしれません。

(読売新聞メディア局 永原香代子)

【紹介したトピ】
不妊からの流産、もう離婚するしかないのでしょうか…

田口早桐さん
田口早桐(たぐち・さぎり)
産婦人科医、生殖医療専門医

 1965年大阪市生まれ。1990年川崎医科大学卒業後、兵庫医科大学大学院にて、抗精子抗体による不妊症について研究。兵庫医科大学病院、府中病院を経て、大阪・東京で展開する医療法人オーク会にて不妊治療を専門に診療にあたっている。自らも体外受精で子どもを授かった経験を持つ。著書に『ポジティブ妊活7つのルール』『やっぱり子どもがほしい! 産婦人科医の不妊治療体験記』。

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