「性格が悪い人」のこと

コロナ禍になるすこし前まで、自分の中で「プロフィール帳」を人に配るブームがきていた。小中学生のころ、同級生にこれを配ったり配られたりした記憶がある人が多いんじゃないかと思うのだけれど、プロフィール帳とは、あらかじめ印刷された質問に答えていく形式で、自分の名前や誕生日、好きなものなどを書き込んでいくシートのこと。

「好きなお菓子は?」とか「自分のチャームポイントは?」といった、大人になると人にはあんまりわざわざ聞かないような、素朴な質問に対する答えを教えてもらえるのがおもしろくて(みんなわりと素直に「九州しょうゆ味のポテチ」とか「まつ毛かな」とか答えてくれる)、会う人会う人にペンを渡して書いてもらっていた。

項目のひとつに「どんな人が苦手?」という質問があったのだけれど、友人のひとりがそれに対し、「性格の悪い人」と答えていた。「性格の悪い人はみんな苦手じゃん」と私が言うと、友人はちょっと考えてから「でもさあ」と言う。「たぶん私の思う『性格が悪い』とシホが思う『性格が悪い』は、けっこう違う気がする」

よくよく聞いてみると、友人は「人の好きなものを当人の目の前で否定する人」を性格が悪いと思うらしい。それは私もいやだな、と思う。

「言葉で否定しなくても、態度にそれが表れてる人を見ると『いやなやつだな~』と思う。一緒に映画を見てる途中で、つまんなそうに携帯いじりだす人とか」
「えっ、それは映画館で?」
「いや、家でNetflix見てるときとか」

具体例として出されたそのエピソードを聞き、そうかあ、と新鮮に感じた。自分自身はあまりそれを態度に出さないほうだと思うけれど、私はどちらかというと、興味のない映画であきらかに興味がなさそうな態度をとる人のことが好きだからだ。

【生の声1】離婚の手続きの山に心が折れた私が郵便局の窓口で号泣したわけ

どんなやつが「いやなやつ」なのか

「性格が悪い人」とか「いやなやつ」って、ひょっとしてものすごく個人差がある概念なのでは? ふとそう思い、家にいたパートナーに「どんな人のこと『性格が悪い』って思う?」と好奇心で聞くと、「事故現場の動画を撮る人」とものすごく具体的な答えが返ってきた。

事故現場を撮影する人
写真はイメージです

ああ、それは邪悪だ、と感じる。最近は、目撃者の動画が結果的に重要な証拠になったりニュースで使われたりすることも多いので、撮る行為そのものを一概に否定はできない。けれど、Web上でバズることだけを期待して動画をTikTokTwitterに載せる第三者のことは、たしかに私も悪趣味だなと思う。

別の友人は、「肝心なときに仲間を見捨てる人のこと、いやなやつだな~と思うよ」と言った。彼はかつて働いていたベンチャー企業で、営業チームに所属していたらしい。そのなかで、ある優秀な同期が、月々のノルマをチーム単位ではなく個人単位で設定しなおしたらどうか、と先輩に進言するのを聞いたことがあるという。その同期のチームには、必死で努力しているものの営業成績がなかなか振るわない新人がいて、優秀な同期はその新人のメンター役をはじめは引き受けていたものの、「自分まで足を引っ張られたくない」という理由から途中でやめてしまったそうだ。

友人が、その同期を見て「平気で仲間を切り捨てるいやなやつだな」と感じた、というのにはたしかにうなずける。彼は大学時代からチームワークを重視するタイプで、課題の多い授業に学期の途中からあまり出なくなった学生(私だ)にも、心配して頻繁に連絡をくれていたからだ。友人は、その同期が「ガッツがある」と評価される会社の空気にあまり馴染なじめず、「あんなにいやなやつが出世していくなんて……」と思ったという。

【生の声2】マクドナルドのメニューが読めない私、実はスタバもモスのメニューも

「あなたにはそういう性格の悪さがある」

と、ここまで周りの話を聞き、その答えを無邪気におもしろがっていた私は、ふと不安になる。かつて友人に「あなたは性格が悪い」と言われたときのことを、数年越しに思い出したからだ。

そのとき、彼女と私は居酒屋のテーブルで向かい合っていた。注文したおつまみがくるまでのあいだ、自分がすこし前にしたひとり旅について話していた。「駅の近くに、古民家を改装した何食べてもおいしいビストロがあって、〇〇さん好きそうだなと思ったよ。いつかあの辺に足を延ばすことがあったら行ってみて……っていうか、よかったらいつか一緒に行こう」。私がそう言うと、彼女はスマホの今月のカレンダーの画面を開き、「いつごろがいい?」と聞いてきた。

ここで嘘を書いても仕方がないから正直にいうと、私はそのときすこし、ウッ、と思ったのだ。都内や関東近郊ならまだしも、遠方の、しかもつい先週行ったばかりの土地に、わざわざ再度足を運ぶ理由がない、と思った。せめて半年後くらいのイメージでいたよ、そんなに早く予定聞いてこないでよ、と感じ、「うーん」と言った。

「ごめん、来月にかけてちょっと仕事が忙しいから、またこっちから空いてる日を連絡してもいい?」

私が開いているスマホのカレンダー画面は、まっ白だった。その月、私はほんとうに暇だったのだ。仕事はあるにせよ外出の予定は極めて少なく、なんならもう一度、どこか違う場所に旅行に行っちゃおうかな、と考えていたくらいだった。彼女は私の返事を聞くと「わかった」と言い、そのまましばらく、楽しくお酒を飲んだ。

お互いにわりと酔っていたのだと思う。帰り際、「また近いうちに」と私が言うと、彼女が「次は1年後くらい?」と笑った。なんでよ、ふつうにもっと早く会おうよ、と私も笑って言葉を返すと、彼女は「思ってないこと言わないほうがいいと思う」とまじめな顔で言った。

「一見やさしいけど、あなたにはそういう性格の悪さがある」。彼女に駅で言われた言葉を忘れられない。今回、この話をエッセーに書いてもいいかな、と恐るおそる友人に連絡すると、「いいよ。でも私のいやなやつっぷりも書いてくれないと」と返信がきた。そう言われてもそんなこと書けないよ、とここで文章を終わらせようとしているのがたぶん、私のなによりの性格の悪さだ。

【生の声3】くせになる、じわる・・・・・・、最近話題の「生湯葉シホ」を一気読み

あわせて読みたい

生湯葉シホ
生湯葉 シホ(なまゆば・しほ)
ライター・エッセイスト

1992年生まれ、東京都在住。Webを中心に取材記事の執筆やエッセーの執筆をおこなう。ブログ:yubalog.hatenablog.com Twitter:@chiffon_06

Keywords 関連キーワードから探す