新型コロナウイルスに感染した場合、個人で加入している保険は支払いの対象となるのでしょうか? オミクロン株の感染拡大に伴い、医療機関の入院のみならず、ホテル療養や自宅療養も増え、検査をせずに医師が感染者と判断する「みなし陽性」というケースも。濃厚接触者で自主隔離を余儀なくされた場合もあります。保険に詳しいファイナンシャルプランナーの長尾義弘さんに聞きました。
夫は日額1万円、妻は一時金10万円
東京都昭島市の会社員女性(38)は3月上旬、保険会社の担当者から、「コロナにかかってない? 陽性になったら保険金の請求を忘れずにしてください」と電話がありました。夫と子ども2人の4人で暮らすこの女性、2月上旬、小学生の長男の感染を機に家族全員が陽性に。発熱は1日で治まり、10日間の自宅療養で通常勤務に戻ったそうです。
保険担当者に感染と療養の状況を説明。すると、加入している医療保険に夫は日額1万円、女性は一時金10万円の入院給付金が付帯されており、自宅療養でも入院と同じ扱いになるとのこと。「医療機関に入院したわけでもないし、無症状だった夫はテレワークで仕事もしていました。まさか、夫婦あわせて20万円も保険金がもらえるなんて思いもしませんでした」と驚きと喜びを隠せません。
ファイナンシャルプランナーの長尾さんによると、医療機関に入院しなかった場合でも、入院給付金が下りるケースは次の四つあるといいます。
〈1〉コロナ感染と医師から診断された患者の宿泊施設(ホテル)療養
〈2〉コロナ感染と医師から診断された患者の自宅療養
〈3〉医師が「みなし陽性」と診断した患者の自宅療養
〈4〉神奈川県の「自主療養者」
〈1〉~〈3〉の場合はいずれも、医師から新型コロナウイルス感染症と診断(PCR検査等で陽性と判明)され、保健所の判断で宿泊施設や自宅で療養をした場合です。自分で感染しているだろうと判断したり、濃厚接触者だからと自主隔離をしたりしても、給付の対象にはなりません。
〈4〉は神奈川県が1月下旬から独自に始めた「自主療養」という仕組みです。抗原検査キットや無料検査によりコロナ陽性が判明した場合、医療機関を受診せず、自主療養届を出すことで療養を始められます。3月からは、神奈川県が発行する「療養証明書」があれば、入院と同じ扱いで一部の保険会社で保険金の請求ができるようになりました。
契約殺到「コロナ保険」相次ぐ値上げ
医師が新型コロナの感染と診断した時点で、一時金が受け取れる「コロナ保険」も相次いで発売されています。発売当初は保険料が数百円と少額で、数万円以上を受け取れる保険商品もあり、想定を上回る契約希望者が殺到しました。
このため、取り扱っている保険各社が2月から、販売停止や保険料の値上げを実施しています。日本生命保険傘下の大樹生命保険は2月4日から、感染症を対象にした医療保険「おまもリーフ」の販売を停止。第一生命保険の子会社、第一スマート少額短期保険は、コロナ保険の保険料を890円から約4倍の3840円に値上げ。損保ジャパンもコロナ保険「コロナお見舞い金」の保険料を3倍に引き上げました。
いずれも、オミクロン株の感染急拡大による加入者の増加が原因です。「この数か月でコロナの感染者が急増する前例のない事態に、保険各社の当初の計算が狂ったのでしょう」と長尾さんは説明します。
旅行保険でもコロナに対応
保険金を受け取れるケースはこのほか、旅行保険で対象になる場合があります。国内旅行傷害保険では、東京海上日動が「コロナお守りパック」という保険商品で旅行中のコロナ感染に対応。医師の診断に基づいて、一時金が支払われます。
また、海外旅行保険は、コロナ感染による死亡、疾病、治療など、ほとんどの保険が保険金支払いの対象としています。長尾さんは「クレジットカードに付帯している旅行保険でも、コロナの感染による治療や入院について保険金の支払い対象となる場合があります」と話しています。

コロナ感染で働けなくなったら?
新型コロナによる入院・自宅療養などで、仕事ができなくなった場合は就業不能保険の対象となるのでしょうか。
「医師などの指⽰により自宅療養となった場合は、就業不能状態に当てはまります。しかし、就業不能保険は保険金の支払い対象となる就業不能状態の期間を、10日以上(チューリッヒ生命)の短期で設定しているケースはまれで、60日以上としている場合がほとんど。コロナの感染者には当てはまらないでしょう」と、長尾さんは説明します。
新型コロナの影響による休業・労働時間の短縮などへの支援・給付については、国の休業支援があります。保育所や小学校の臨時休業などで子どもの世話をするため、働けなくなった個人で仕事をする保護者には小学校休業等対応支援金などが活用できます。
新型コロナを巡る状況が数か月ごとに変化しているため、保険の内容や対応も今後の感染状況や療養態勢によって変わる可能性があります。長尾さんは、「保険金が支払われるかどうかは、保険会社や保険商品によって異なります。『どうせ支払われないだろう』や『きっと支払われるはず』と自分の思い込みではなく、加入している保険会社に必ず確認するようにしてください」とアドバイスします。
いずれの場合でも、保険金の支払いの請求には、医師の診断書、医療機関が発行する入院証明書、保健所が出す自宅療養証明書など公的機関の書類が不可欠です。診断書など医療機関が発行する書類は、法律で定めるカルテの保存期間5年を期限としているケースがほとんど。保険金の請求は3年で時効となりますので、忘れないように。
【新型コロナ】国の支援・給付などについてはこちら(厚生労働省)
(読売新聞メディア局 鈴木幸大)