池松壮亮、伊藤沙莉の主演映画、もう戻らない恋の日々たどる

ひねりの利いた青春映画を連発してきた、松居大悟監督による初のラブストーリー「ちょっと思い出しただけ」。ミュージックビデオを手がけるなど親交のあるロックバンド、クリープハイプの尾崎世界観が、ジム・ジャームッシュ監督の「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991年)への愛を込めて作った新曲をモチーフにした1本で、松居監督が脚本も書いた。

一緒に見た映画が、終わった恋を呼び覚ます。主演は池松壮亮と伊藤沙莉。ダンサーとタクシー運転手の男女が出会い、別れるまでの6年間が、切なく、いとおしくつづられる。珠玉という言葉が似合う、味わい深い物語である。

始まりは、2021年7月26日。東京では、コロナ禍のさなか、五輪を開催中だ。舞台の照明スタッフとして働く照生(池松)は朝、独り暮らしの部屋でいつも通りに身支度を整え、仕事場の劇場へと向かう。深夜。タクシー運転手の葉(伊藤)は、トイレに寄りたいという客の求めに応じ、目に留まった劇場に車を着ける。

客を待つ間、何となく中へ足を踏み入れると、扉の向こう、空っぽの舞台にはだしで一人踊る人影。ケガのためにダンスの道を諦めた、かつての恋人――照生だった。この日は、彼の誕生日。偶然に驚き、立ちすくむ葉の脳裏を、眠っていた記憶が駆け巡る。

映画「ちょっと思い出しただけ」
(c) 2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

松居監督は、ここから1年ずつ遡って、7月26日の2人を描いていく。共に過ごした日、別々だった日。悲しい日、幸せな日。この仕掛けが、観客を物語の奥深くへといざなう。これはいつ? この時はどんな仲? 手探りでたどっていく、その映画体験の何と苦しく甘美なことか。

スクリーンの隅々まで目を凝らせば、街の風景のさりげない変化が、時の移ろいを告げる。繰り返し映される照生の部屋は、シーンごとに色合いも、雑然とした感じも違って、恋の行方を示唆する。終わりから始まりに至る逆回転が現実を突きつける。あの日々はもう戻らない、と。

残酷で美しい世界にしっかりと息づく、俳優たちの演技も素晴らしい。繊細な雰囲気をまとう池松に、たくましさが光る伊藤。正反対の個性が溶け合って、これが「運命の2人」と実感させる。妻の帰りを待ち続ける男を演じた、永瀬正敏の存在感も見事だ。

ラストに、思い出と幻想が揺らめく、魔法めいたワンシーンがある。映画ならではの、まばゆく、泣きたくなるようなひととき。だが、それも一瞬のこと。これからも、それぞれの人生は続く。タイトルの意味が胸にしみじみと迫ってくる。

(読売新聞文化部 山田恵美)

ちょっと思い出しただけ(東京テアトル、ユニバーサル ミュージック)1時間55分。ヒューマントラストシネマ渋谷など。公開中。

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