「一人っ子政策」後の中国、子育てママが復職できず

世界で家族の姿が多様化している。各国や地域の固有の事情のほか、不況や高齢化、新型コロナウイルス禍など共通の課題も影響している。読売新聞の特派員が中国の家族の今を追った。(上海 南部さやか、写真も)

「一人っ子政策」を廃止後、2児を育てる

平日の夕方、夕食の支度を済ませ、急いで幼稚園に向かう。長男(5)と長女(3)は帰宅すると「遊ぼう」と飛びついてくる。30分後には2人の英語のオンライン授業が始まり、終われば長男をバスケットボールの練習に送る。夜は論理的思考を養うオンラインの知育教室もある。宿題を見て、入浴、寝かしつけを終えると、いつもぐったりだ。

上海市の 張維佳ジャンウェイジア さん(36)は、中国政府が2015年末、人口抑制のために36年にわたって実施した「一人っ子政策」を廃止した後、2児を出産した。

競争社会の中国では、幼い頃から習い事を掛け持ちさせるのが一般的で、子育ては経済的、体力的に大変だ。夫の 薛坤 シュエクンさん(34)は昨年、在宅勤務の時間を増やすため、勤め先を辞めて食品関連の会社を設立した。現在は夫婦で育児に奮闘中だ。

昨年12月、上海市の自宅で子供たちの宿題を見る張さん

一人っ子政策は1979年に始まった。80年代に生まれた張さん夫婦も一人っ子で、きょうだいがいるという感覚が分からない。「さみしいという思いすらなかった」という。

きょうだいげんかの対処はどうするか、2人同時にかんしゃくを起こした場合は――。お互いの親からは的確な助言は得づらい。育児書を開き、インターネットで検索しては試行錯誤する毎日だ。

2児がいるため、復職できず

2人目がほしいと思ったのは、父(64)の入院がきっかけだった。2016年に長男 正溪ジョンシー 君を出産し、製薬会社に復職して間もない頃だ。

夫婦で肺炎にかかり、父に長男の面倒を2日間任せたが、父はその直後に倒れた。診断結果は帯状 疱疹ほうしん で事なきを得たが、将来、夫婦で双方の両親4人を介護しなければならないと考えると、不安を覚えた。自分の子供世代は、「きょうだいがいるほうがきっと心強いだろう」。そう確信した。

中国は共働きが一般的だが、3歳未満の乳幼児向けの公的な保育施設が少ない。張さんは、仕事を続けるか、育児に専念するかで悩んだ。

公園を歩く張さん一家の写真。
張さん一家

各家庭では、夫側の祖父母が孫の世話をするのが主流だ。張さんの場合は実の両親に任せていたが、しかり方や食事などを巡って子育ての考えが食い違い、「自分の子供は自分で育てたい」と専業主婦になることをいったん決意した。長男出産後も国外出張や残業があり、子供との時間が持てないことも理由だった。

父からは「祖父母が孫の面倒を見るのは当然だ。辞めずに働き続けろ」と反対されたが、長男が1歳の時に、思い切って退職した。1年後に長女の 伃 ジンユーちゃんが生まれた。

ただ、数か月間は親の助けを借りまいと2児の子育てをしたが、一日中、子供と一緒の生活は想像を上回るつらさで、「心身ともに限界」になった。住み込みの家政婦を雇い、復職しようと思い直した。

複数社の採用試験に応募したが、最終面接で全て不合格に。理由は「子供が2人いること」だった。子育てで急な仕事に対処できないと判断されたらしい。

中国の出生率は20年、建国以来最低を記録し、習近平 シージンピン政権は昨年、3人目の出産も解禁した。だが、張さんの面接の一件のように、企業側に子育て中の女性を受け入れる態勢が整っていないとの批判が強い。

大卒まで、子供1人あたり3000万円が必要

高額の教育費も出産をためらわせる。中国紙・21世紀経済報道によると、北京や上海などの大都市では、子供が大学を卒業するまでに1人当たり3000万円必要だ。全国の地方政府は産児・育児休業延長などの出産奨励策を次々と打ち出しているが、「根本的な対策にならない」と歓迎する声は少ない。

張さんも、3人目は難しいと考えている。子供たちの教育費や医療費に年間120万円近くかかるからだ。将来、機会を見つけてまた働きたいとも思う。そのためには、「女性の出産や子供の成長段階に応じて、仕事や生活の選択がしやすい社会になってほしい」と願っている。

<読売新聞1月5日付朝刊掲載>

家事、女性に偏り
  • 中国では「女性は天の半分を支える」との言葉があり、労働力確保のためにも女性の就労が奨励されてきた。世界銀行によると、国際労働機関(ILO)のデータから推定した2019年の女性の労働参加率は60.6%と、経済協力開発機構(OECD)諸国の平均より高い。
  • 中国国家統計局によると、1日の平均労働時間は、男性7時間52分、女性7時間24分とほぼ同じだ。ただ、家事や子育てなどを意味する無償労働の時間を比べると、女性は男性の2.5倍と負担は偏っている。
Keywords 関連キーワードから探す