イスラエルのゲイカップル、認められない結婚と代理出産

世界で家族の姿が多様化している。各国や地域の固有の事情のほか、不況や高齢化、新型コロナウイルス禍など共通の課題も影響している。読売新聞の特派員がイスラエルの家族の今を追った。(ヤッファ 工藤彩香、写真も)

ゲイカップル、2人でパパに

「さあ、どのくらい首を持ち上げていられるかな?」「すごいぞ、最高記録だ!」

イスラエル中部テルアビブ近郊の街、ヤッファ。冬の柔らかな日差しが差し込むアパートで、2人のパパが赤ちゃんを笑顔で見守っている。

弁護士のハレル・バラクさん(39)と、インテリアデザイナーのヤキル・カウメリさん(35)は結婚6年目のゲイカップルだ。昨年夏、代理出産を通じて長男オリバーちゃんを家族に迎えた。

オリバーちゃんを笑顔であやすバラクさん(左)とカウメリさん(昨年12月9日、イスラエル中部ヤッファで)
オリバーちゃんを笑顔であやすバラクさん(左)とカウメリさん(昨年12月9日、イスラエル中部ヤッファで)

「君は子供が欲しい?」。8年前の初デートの日、バラクさんが尋ねた。子供のいない人生は考えられなかった。驚きながらもカウメリさんは答えた。「そうだね、父親になってみたいな」

イスラエルでは、同性婚は法的に認められていない。ユダヤ教で同性愛がタブー視され、けいけんなユダヤ教徒の間で法制化への反対が根強いためだ。

ただ、同性婚ができる国外で結婚し、帰国したカップルには婚姻関係が認められている。税金や相続などで、異性婚夫婦と同じ法的権利が保障されるのだ。2人は2016年、米ニューヨークで結婚した。

国外で代理出産

オリバーちゃんを授かるまでは困難が続いた。ゲイカップルが子供を持つ手段である代理出産は、イスラエル国内では認められていないためだ。このため2人は18年、代理出産が可能なカナダに飛んだ。

現地の診療所で精子を凍結し、仲介業者を通じて代理母を探した。シングルマザーが手を挙げてくれたが、新型コロナウイルスの感染拡大とぶつかった。カナダへの入国は制限され、2人はイスラエルから、代理母のおなかの子の成長を待った。

「僕、父親になるよ」。代理母が安定期を迎えた頃、カウメリさんは母に報告した。孫を諦めていた母は泣いて喜んだ。両家の家族では唯一、バラクさんの父が結婚自体に反対していたが、代理母から送られてくるエコー写真や膨らんでいくおなかの動画が増えるにつれ、わだかまりは解けていった。

昨年8月23日、カナダ政府から特別入国許可を受け、出産に立ち会った。小さくて温かい我が子を初めて抱いた感触は一生忘れない。「こんな日が本当に来るなんて」と喜び合った。

イスラエルのヤッファの位置をしめした地図

同性カップルの子を持つ決断は尊重される

国内での同性婚は認めないが、国外で結婚して帰国すれば権利を保障する――。イスラエルが同性婚に「抜け道」を用意するのには、建国の歴史と関係がある。

ユダヤ人移民が建国したイスラエルの文化は多様で、同性カップルにも寛容だ。テルアビブで毎年6月に行われる世界最大級のLGBTパレード「テルアビブ・プライド」には市の人口の約半数にあたる25万人が参加する。

ナチスドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)で600万人もの命が失われた経験から、子を多く産み育てることが国是とされていることも大きい。女性1人が一生に産む子供の数を示す合計特殊出生率は19年で3・01と、経済協力開発機構(OECD)加盟国でも断然のトップだ。同性カップルでも、子を持つ決断は尊重される。

オリバーちゃん(中央)とバラクさん(左)、カウメリさん(右)(昨年12月9日、イスラエル中部ヤッファで
オリバーちゃん(中央)とバラクさん(左)、カウメリさん(右)(昨年12月9日、イスラエル中部ヤッファで

オリバーちゃんの代理出産にかかった費用は日本円で約1450万円と高額だった。更に、イスラエルでも、ゲイカップルの家族への偏見はまだ残る。

だが、カウメリさんは動じない。「異性の夫婦より準備も覚悟もしている僕らが良い親になれないなんて、誰にも言う資格はないよ」

バラクさんも「ゲイカップルに『できちゃった』はありえない。全員が望まれて生まれてくるよ」と笑い、こう続けた。「子に注がれる愛の大きさに異性婚も同性婚も違いはない。この子が『僕の家族、普通だけど?』って思える社会にできるよう頑張らないとね」

2人は今、第2子の代理出産に挑戦中だ。将来、オリバーちゃんのよき理解者となることを願って。

法整備進む
  • 同性婚は2001年、世界で初めてオランダで認められた。米国のLGBT人権団体「ヒューマンライツ・キャンペーン」によると、現在は北南米や欧州を中心に31か国・地域が認めている。アジアでは台湾が初めて、19年に法制化した。日本は同性婚を認めていない。
  • イスラエルでは同性カップルの権利拡充に向けた法整備が進む。国外で結婚して婚姻関係が認められれば、レズビアンカップルは無料の不妊治療が可能だ。
  • 最高裁は昨年、ゲイカップルが国内で代理出産により子供をつくることを認めないのは違法と判示し、今後の政府の対応が注目されている。
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