節分の豆まき「うるさい」「迷惑」…鬼を退治しない新しい作法

2月3日は節分。豆をまいて鬼を払い、無病息災を祈ります。しかし、近年、そのやり方には変化が見られるようになりました。マンションでは玄関から「鬼は外」と豆をまいたままにすれば、隣人たちから「ゴミをまき散らすな」、「掃除をしろ」と注意される可能性もあります。その対策として袋に入ったまままいて後で回収する方法も行われていますが、これで鬼が払えるのかモヤモヤします。専門家に話を聞くと、「豆はもともと鬼を攻撃するアイテムではなかった」ことがわかり、「袋のままもOK」という答えがかえってきました。

立春は正月 節分は大みそか

日本の行事や民俗学に詳しい国学院大の小川直之教授によると、かつては、旧暦で春の訪れを感じさせる立春が1月1日と日取りが近かったこともあり、立春を新年の始まりと考える「立春正月」を行う地域もありました。

平安時代には大みそかに厄疫・邪気を払う宮中行事「追儺ついな」が盛んに行われており、これが立春正月の前にも行われるようになりました。2月4日が立春で、その前日の「節分」にも行事が行われるようになったのです。

節分に豆をまく習慣は1400年代から行われていたと推測されます。室町時代の皇族・伏見宮貞成ふしみのみやただふさ親王の「看聞かんもん日記」という京都の生活をつづった資料に、「応永32(1425)年、『鬼、大豆打ち』『近年行われるようになった』」という意味の記述があります。

袋のまま豆まきがOKの理由

節分にまいた豆を拾い、自分の年齢の数や年齢プラス1個を食べるというのも、新年を迎えるためのものです。ただ、近年では豆まきに関して、「鬼は外の声がうるさい」「まいた豆がゴミになる」と迷惑行為と思われることも多くなりました。

まいた豆を回収しやすいように、また食べられるように袋に入れたまま、豆をまくことも行われています。こうした点について、小川教授に聞くと「OK」との回答が。その理由が節分や豆まきの由来にあるといい、教えていただきました。

〈豆は鬼を祓う「つぶて」ではなく、お供え物だった!〉

迎えたい神様(お正月なら年神様)を迎えるときには、悪さをする精霊(鬼)も一緒に来てしまうという考え方があります。主神だけでなく、くっついてきた有象無象の精霊(鬼)にも、お供えをしなければいけません。豆まきには、「あっち行け!」ではなく、「豆をお供えするので帰ってください」という意味が込められています。これが鬼を払う「つぶて」のように考えられるようになるのは1400年代前半からです。

日本には、生物・無機物を問わず全てのものに霊が宿っているという「アニミズム」の考え方があるため、例えば、建物などを建てる際の地鎮祭でも大地の精霊を鎮めるためにお米と塩をまきますし、登山では、山の神に持参したおにぎりの米粒をまく人もいます。

こうしたことから、食べ物の豆をまくというのは、祭るべき神にくっついて訪れてくる、人に悪さをする精霊たちへの供え物と考えることができます。

近年、「落花生やピスタチオでも良いのか」「個包装のまま、まいてもいいのか」という声がありますが、問題ありません。貴重な米より、まきやすく拾いやすい食べ物として豆になったのでしょう。昔は、豆といえば「大豆」、芋といえばサトイモでした。現代では、いろいろな種類の豆があり、まいた後に拾って食べることを考えると、殻付きの落花生や包装されたままの大豆をまいてもいいでしょう。

大豆は本来、鬼をやっつけるアイテムではなく「お供えものだった」と國學院大の小川直之教授は説明します。
お供えものとしての大豆(写真はイメージ)
〈鬼のお面をつけた「鬼役」は不要〉

本来、鬼は想像上の生き物ですから鬼にふんする人はいなくてもいいです。豆をまく人は、年男(年女)です。年男がいなければ、年長者からまきます。年長者と子どもは、神様と交信できると考えられているので、子どもがまくのも良いでしょう。豆をまいたら、鬼が入ってこないよう、すぐドアを閉めます。

小川教授は、「行事を行うことで生活にメリハリが出ます。子ども時代に行事を家族で行うことは、季節感が学べるし、共通の思い出を持つことで家族との絆が深まります。楽しく豆まきができたらいいですね」と話しています。

マンションでの豆まき

マンションなどの集合住宅では、豆まきがトラブルになることも考えられます。マンション管理に詳しいマンション管理業協会(東京都港区)の池田朋広さんは、「豆まきに影響があると思われるのは、マンション内の廊下やベランダ。そして音の問題」と言います。

ベランダは、個人で自由に使えますが、まいた豆の掃除は居住者です。共用廊下、共用階段などは、個人が専用使用してはいけないので、豆が共用部分に飛び出した場合は、片付けたほうが良さそうです。

居室部分の専有部分も、「鬼は外! 福は内!」と大声や大きな足音など著しく音を立てることは使用細則などで禁止されています。池田さんは「まいた豆の掃除が大変なら個包装で。豆まきは午前9時~午後9時頃までに終えたほうがいいでしょう」と提案しています。

子どもの豆まき、窒息注意 

消費者庁は、5歳以下の子どもが豆まきの豆などをのどに詰まらせる事故が毎年のように起きているとして、注意を呼びかけています。

子どもは、奥歯が生えそろわず、かみ砕く力や飲み込む力が十分ではないため、豆やナッツ類を食べると、のどや気管に詰まらせて窒息してしまったり、肺炎を起こしたりするリスクがあるそうです。

食べ物を口に入れたままで、走ったり、笑ったり、泣いたり、声を出したりすると、誤って吸引し、窒息・誤嚥するリスクがあります。食べるときは姿勢よく、集中して食べること。豆は個包装のものなど、子どもが拾って口に入れないものを使うようにしてほしいとしています。

(読売新聞メディア局 渡辺友理)

小川直之(おがわ・なおゆき)
国学院大学文学部・大学院教授

民俗学者。1994年から国学院大文学部専任講師、助教授を経て2003年から現職。中国・南開大学外国語学院客員教授。1995年に「摘田稲作の民俗学的研究」で博士(民俗学)。2018年から柳田國男記念伊那民俗学研究所所長。「日本の歳時伝承」 (アーツアンドクラフツ・2013年、角川ソフィア文庫・2018年)など著書多数。「はじめての行事えほん」(パイインターナショナル・2018年)の監修も行う。

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