なぜ日本は「稼がない男」に対して厳しいのか

年の瀬が押し迫るなか、「いしだ壱成 貧困で離婚」という芸能ニュースが入ってきました。結婚し、子供をもうけ、現在は地方都市で暮らすいしだ壱成さん。妻がメディアの取材に「家にお金がなく、経済的な理由から離婚する」という内容を語ったことがワイドショーなどでも話題になりました。世間では妻に同情する声が多く、インターネットニュースのコメント欄は「妻が気の毒。稼がないいしだ壱成が問題だと思う」といった投稿であふれていました。これを見て、日本の「男女のあり方」について考えさせられました。今回は、海外とも比べながら「夫婦のあり方」や「ジェンダー」について考えてみたいと思います。

旦那が稼がないと妻がかわいそう?

1990年代に俳優として活躍したいしださんは、24歳年下の女優・飯村貴子さんと2018年に結婚。妻と子供と3人で生活していました。インタビュー記事によると、いしださんは定職に就こうとハローワークに通っていましたが採用されず、インターネットのライブ配信やパワーストーンの販売で収入を得た時期もあったそうです。そうしたなか、うつ病が再発。妻によると、ものに当たり散らして手を付けられないことがあり、それ以来、ストレスで眠れなくなったといいます。生活はどんどん苦しくなり、車を手放して友人らに借金をし、妻もスーパーなどでアルバイトをしていました。そのときは、いしださんが子供の面倒を見ていたそうです。

ワイドショーでは著名人からも「妻がかわいそう。いしださんが悪い。彼はもっとしっかりすべき」という意見が多く聞かれました。平日の昼間に放送されているワイドショーですから、出演者は番組のターゲット層だと思われる「妻という立場」に配慮してコメントしている可能性もあります。

なぜ世間がいしださんに対してこれほどまでに厳しいのか。それは彼が「お金を稼がないから」ということが理由のよう。「子供がいて、妻がいるにもかかわらず、お金を稼がない男性」というのは日本の世間にとって有無を言わさず「許せない存在」となるようです。

でも、そこに「ジェンダーの決めつけ」を感じます。なぜ、「生活に十分な金額を稼がない」ことについて、妻はそれほどたたかれず、夫ばかりが叩かれるのか。「女性は何かあったら、夫や実家に頼ればよい」という感覚が社会に浸透している一方で、男性にはそれが許されないのか。いま「ジェンダー平等」がうたわれていますが、世間にはまだまだ性別によって「許される振るまい」と「許されない振るまい」があるようなのです。

いしださんに対する厳しい意見を見て、筆者はひと月ほど前まで激しいバッシングにさらされていた元皇族女性の配偶者のことを思い出しました。彼の場合も「安定した収入がまだないのに、皇族の女性と一緒になろうとするなんて…」といった批判が多数見られました。この手の意見を目にするたびに筆者は、「なぜ妻が今後、働かないという前提なのか」と疑問に思ったものです。今回のいしださんのバッシングでも、「妻は養われるのが当たりまえ」という世間の価値観を垣間見た気がしました。

うつに性別は関係ない

いしだ壱成さんは、うつ病を公表しています。世間はうつを公表している彼に対して、もう少し配慮をしても良いのではないかと感じました。

一部のメディアは、「妻の収入が5万円程度なのに、月に3万円をたばこ代に使っている」という記事などをもとに、いしださんの金銭感覚について批判していました。でも「たばこを吸うことで、ギリギリの精神状態を保っている」可能性も否定できないと思います。人の精神状態は第三者には簡単に分からないのですから、うつ病だと公表している人のお金の使い方を責めるのは酷な気もします。

うつ病の人が時に働くのが難しいことについては、男も女も同じであり、性別は関係ありません。「男は何が何でも働かなければいけない」という考えとは一度サヨナラしたほうが、男も女も生きやすい社会になるのではないかと思うことがあります。

何はともあれ、日本人は「働かない男」に対して本当に厳しいのです。筆者も日本で生活していて、何げない会話のなかで「働かない男性は歓迎されないんだな」と感じることがあります。たとえば数年前、都内のホームパーティーに行った時のこと。日本に駐在する欧米人女性もパーティーに参加していました。日本人から「結婚はされているんですか?」と聞かれた彼女は、結婚していて子供がいること、夫が子供の面倒を見ていることを話しました。これを受けてうらやましがる女性もいましたが、「え? ご主人、働いてないんですか?」と、男性が働かなくなった経緯を確認するような質問も相次ぎ、「働かない男性」というのはすんなり受け入れてはもらえないのだなと感じました。

ヨーロッパの「男女平等」は女性にとって厳しい面も

日本では「北欧は男女平等」だということがよく話題に上がります。確かに世界男女平等指数を見てみると、北欧の国々は毎年、ランキングの上位にいます。筆者が出身のドイツは北欧ほど女性の地位が高くないものの、2021年の世界の男女平等指数で、156か国中11位でした。ドイツの男性も北欧の男性も、家事育児に積極的であることが日本で話題になることがあります。それ自体は当たっている部分もありますし、そこにスポットが当たるのは悪いことではありません。

赤ちゃんを抱く男性

でも、あらゆる面で日本よりも男女平等が進んでいる北欧諸国やドイツでは、「子供のいる女性は働かなくてもいい」というような考え方は社会的に認められていません。既婚の女性が経済的に困窮すると、日本では前述のように「稼がない夫が悪い」とばかりに世間は妻に同情的ですが、ドイツですと妻に同情する人はまずいないということです。「女性が経済的に困窮しているのであれば、本人(女性)が働くべきだ」という考えが主流だからです。ヨーロッパでいう男女平等とは「男性が家事育児に参加する」ことだけではなく、「女性が外で働く」ということでもあるわけです。自分で生活できるような金額を稼がない妻が「夫が稼がない」と言ったところで、ヨーロッパで同情してくれる人はまず、いません。日本的な観点から見るとヨーロッパはそういう意味でドライなのかもしれません。

筆者はヨーロッパ流の「男女平等」も、日本人が理想とする「男女平等」にも「その国の文化」が出ているなと感じます。芸能ニュースを通して「真の男女平等とは何か」を考えさせられた年の瀬。来年も様々なテーマについて皆さんと考えていきたいと思います。皆様良いお年を。

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サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住23年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)、「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)。


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