2022年は寅年…「虎ノ門」「とらや」「虎の子」意外と知らないトラの「虎の巻」

2022年はとら年です。「虎の巻」「オオトラ」などの慣用句でなじみのある動物ですが、日本にトラは生息していないにもかかわらず、なぜこんなにも身近な存在なのでしょうか。トラにまつわるあれこれを専門家に聞きました。

日本動物園水族館協会によると、2020年12月31日時点で、加盟している90動物園で155頭のトラが飼育されています。20頭を飼育している「しろとり動物園」(香川県東かがわ市)によると、トラの生息地はインド、ネパール、バングラデシュなどの森林や竹林。黄土色に黒いしま模様が特徴です。林の中で目立たないようにする迷彩の役割を持っています。

耳の後ろの白い目玉模様は、虎耳状斑こじじょうはんと言い、子トラが母トラについていく目印になります。また、目玉に見えるため、背後から敵に襲われにくくなるそうです。

耳の後ろの白い目玉模様は、虎耳状斑(こじじょうはん)と言い、子トラが母トラについていく目印になります。また、目玉に見えるため、背後から敵に襲われにくくなるそうです。
トラの後ろ頭。耳の裏の白い毛が目玉模様に見えます(提供:しろとり動物園)

飼育主任の三宅裕子さんは、「ネコ科は水が嫌いですが、トラは夏の暑い時期は水浴びをよくします。体は大きくても、動きはネコと同じなのがとてもかわいい」とトラの魅力を紹介します。

「虎ノ門」のトラ

トラは、天の四方をつかさどる神「四神思想」に登場します。東の青龍せいりょう、南の朱雀しゅじゃく、北の玄武げんぶ(ヘビとカメの合体像)とあり、西が白虎びゃっことなっています。

この白虎から名付けられたとされる地名が、東京都港区の虎ノ門です。虎ノ門ヒルズ、The Okura Tokyoなど有名な建物が点在しています。現在の虎ノ門交差点(港区虎ノ門1-1)付近にはかつて江戸城の「虎ノ門」がありました。

港区の図書文化財課によると、地名の由来は諸説あり、(1)「虎の尾」と呼ばれる桜の木が付近の屋敷にあった(2)江戸城を築城した室町中期の武将、太田道灌どうかんが出陣する際に「虎は千里って千里かえる」言ったということわざにちなんだ(3)朝鮮から献上された虎を運び入れようとしたが、おりが大きく従来の門では通れなかったため門を改造した――などです。

最も有力な説が「四獣思想によるもの」で、江戸城の西に位置するため、西の獣神・白虎にちなんだ、と推定されています。

虎ノ門があったとされる虎ノ門交差点にあるトラの銅像
かつて虎ノ門があったとされる虎ノ門交差点の銅像

皇居の周辺に数ある「門」の中の一つだった虎ノ門は、明治6年(1873年)に撤去され、現在では門跡の一部が文部科学省脇に残っているのみとなっています。

「とらや」のトラ

トラといえば、ようかんを思い出す人も多いのでしょうか。和菓子屋「虎屋」(本社・東京都港区)は、室町時代後期に京都で創業したとされています。後陽成天皇の御在位中(1586〜1611)より、御所の御用を勤めています。

虎屋の手提げ袋には、トラの走る絵が描かれている
画像提供:虎屋

商家にとって屋号は顔ともいうべきもの。菓子屋に多い「鶴屋」や「亀屋」など動物に由来するものの多くは「鶴は千年、亀は万年」の言葉に表されるように、縁起をかついだものと思われます。

虎屋の屋号の由来は諸説ありますが、そのひとつは、代々店主を務める黒川家が信仰している毘沙門天びしゃもんてんにゆかりの深い動物が「トラ」であること。毘沙門天は富徳富貴の神で、寅の年、寅の月、寅の日、寅の刻に生まれたとされ、寅の日が縁日となっています。

トラは古くから絵画や詩文に描かれ、また朝鮮や中国から毛皮がもたらされたり、肉や骨などが漢方薬としても珍重されたりして、その存在はよく知られていました。しかし、その実物を実際に見ることはなく、当時の人々にとってはあくまでも想像上の動物でした。そのような神秘的なトラの名を名乗ることは、トラの持つ力にあやかろうという気持ちの表れだったのかもしれません。

虎屋に屋号の由来をはっきりと記した文献は残っていませんが、十代店主・黒川光廣が毘沙門天にささげた「願文」には、「虎屋の屋号も、毘沙門天のご加護によって一天の君(天皇)の菓子御用をうけたまわっている、お礼の意味をこめて名づけたものである」という意味の文が書かれているそうです。

慣用句のトラ

虎屋の暖簾のれんの右端には「千里起風せんりきふう」の印判が押されています。これは「虎は千里往って千里還る」「虎うそぶけば風騒ぐ」という二つのことわざを合わせた造語のようです。

日本語学に詳しい北海道教育大札幌校の馬場俊臣教授は、「トラは強い力を持ち、どう猛・残忍であり恐怖感を抱く存在であるとともに、おそれ多く敬うべき優れた存在だとイメージされてきた」と説明します。アジアの各地では、信仰の対象として神・精霊として扱われているそうです。

日本でも昔からトラは、「霊力を持っており、病をいやす」と信じられてきました。例えば「張り子の虎」はもともと厄除やくよけや繁盛を祈願した正月の呪物として作られたものだそうです。

そんなトラを使った慣用句の中から「虎の巻」「虎の子」「虎視眈々たんたん」「オオトラ」について、馬場教授に解説してもらいました。

「虎の巻」

教科書の内容を解説し、問題の解答などを書いた安直な参考書のこと。「あんちょこ」と同じ。中国の兵法書の「とう」という巻の名前がもとになった言葉です。現在は「秘けつ」「早わかり」「便利本」などの意味で使われることも多いようです。

「虎の子」

「とても大切にして手放さないもの。隠し持っている金品」の意味で使われます。トラは、我が子をとても大事に守り育てることから言われるようになった言葉です。昔の中国では、トラの子はとても高額で取引されました。為政者が権威の象徴として飼うのに、成獣を生け捕りにすることは至難の業。そこで子トラを捕まえて育てようとしたわけです。

「虎視眈々」

トラが獲物を狙って身構え、鋭く見つめている様子。じっと機会を狙っている様子の意味。もともと中国の五経の一つである易経えききょうにある言葉で、「虎視」はトラが獲物をじっと観察すること、「耽々」は見下ろす様子を意味しています。

「オオトラ」

「酔っ払い」「泥酔者」のことを「虎」「大虎」と言います。「大虎」はひどく酔っぱらっている状態です。「虎」を使う理由については、「四つんばいになって手が付けられない様子から」「酔った者が張り子の虎のように首を左右にふるところから」「酔って暴れるところが猛獣に似ているから」など、諸説あります。

馬場教授は「『虎に翼』という言葉があります。もともと威力のあるものが、さらに威力を加えることです。来年は、トラに翼がついてコロナを退治し、トラのように元気に走り回れるような年になってほしいですね」と話しています。(読売新聞メディア局 渡辺友理)

あわせて読みたい

Keywords 関連キーワードから探す