塩田千春インスタレーション「いのちのかたち」首里城の破損瓦がアートに

国際的に活躍する現代美術家、塩田千春さんが、那覇文化芸術劇場「なはーと」のこけら落としに制作したインスタレーション「いのちのかたち」が12月4日に開幕しました。11月、制作のために那覇入りした塩田さんは「美術展ナビ」の取材に応じ、「沖縄の人たちの熱意がすごい。普通の展覧会とは違う」と意気込みを語りました。

「歴史が燃える」と心を痛めた首里城火災、復活への願い

「なはーと」は那覇市中心部に2021年10月31日にオープン。1594席の大劇場をはじめ小劇場、スタジオ、練習室などを備え、演劇や舞踊、音楽、美術、伝統芸能など沖縄の文化を内外に発信する中核施設のひとつとして期待されています。名称の「なはーと」は、「那覇市」と「心(ハート)」「芸術(アート)」から。

那覇文化芸術劇場 なはーと
独特の外観が印象的な「那覇文化芸術劇場 なはーと」。外観の皮膜は、首里の伝統的な織物である「首里織り(花倉織)」の構成を再現しているという

インスタレーションの制作依頼があったのは、2年前の首里城火災(19年10月31日)の直前だったといいます。「火災の模様をテレビ映像でみて、歴史が燃えていってしまう、と本当に心が痛みました」と当時を振り返ります。なはーと側と意見交換をしていく中で、自然と首里城の破損瓦などを使い、塩田さんならではの糸で結んでいく作品の構想が固まっていきました。

現代美術家、塩田千春さん
首里城に携わった人たちの思い出の品を使ったインスタレーションの制作に励む塩田さん(那覇文化芸術劇場 なはーとで)。「普通の展覧会とは違います。沖縄の人の思いが強いから」と話す

塩田さんはもともと、その場所やものに宿る記憶という「不在の中の存在」をテーマとして考えているアーティスト。以前も焼けたピアノや椅子を作品に使った経験があり、「首里城の記憶をよみがえらせて、さらにそこに新しい命を吹き込むことができたなら、と考えました」と話します。

インスタレーション「いのちのかたち
首里城の破損した瓦を使ったインスタレーション「いのちのかたち」。人々の復興への願いを一つに集めたかのような力強さと、大切なシンボルを失った深い悲しみが交錯しているよう
インスタレーション「いのちのかたち」
高さ約6メートルで、破損した瓦を約1万個(約1400キロ・グラム)使用。毛糸の総使用量も長さ118キロ・メートルに及ぶ

今回の展示では劇場内に3つのインスタレーションを展開。「首里城の記憶」「人々の願い」「人々が大切にしているもの」をコンセプトにしています。市民参加型の制作でもあり、「希望」をテーマにしたイラストやメッセージを広く那覇市民から寄せてもらい、それをインスタレーションの中に取り入れました。「おいしいご飯が食べたい、でもいいのです。希望があるから人間の社会は発展してきたのですから」と塩田さんは制作の狙いを語ります。

インスタレーション「希望のダンス」
左・1階ロビーの「希望のダンス」。高さ6メートル、糸の総使用量は27キロ・メートル。約1000人から寄せられたメッセージを白い糸で結び、軽快なリズムにあふれ、明日への希望が空へと羽ばたいていくような爽やかな作品。右・様々なメッセージを読むのも楽しい

首里城にかかわった人たちなどから捨てるに捨てられない、思い出の詰まった品物を提供してもらい、塩田さん独特の赤い糸で結びます。2年前の10月31日を最後にショックで予定を書き入れることができなくなってしまった手帳や、首里城の中に置いていて焼け跡から見つかった私物の陶器など、様々な品物が寄せられています。「実際にあるモノ、の力はすごいです。自然と目が離せなくなります。こうした血が通っていないモノに、赤い糸で血を通わせるイメージです」と塩田さんはいいます。

インスタレーション「小さな記憶をつなげて」
1階の展示室の「小さな記憶をつなげて」
インスタレーション「小さな記憶をつなげて」
赤い糸でつながれた、捨てられない思い出の品々

沖縄の人たちの「思いの強さ」に胸打たれる

今回のプロジェクトで塩田さんがとりわけ印象的なのは、「沖縄の人たちの思いが特別に強い」ことといいます。制作に先立ち、今年3月、コロナ禍を縫って塩田さんは帰国。建設中のなはーとに足を運び、展示場所を確認しました。さらに、復興作業が進む首里城を訪れ、琉球大学名誉教授の高良倉吉氏から説明を受けたそうです。また、那覇市立壺屋焼物博物館も訪問し、沖縄の焼き物について詳しく解説を聞きました。

首里城、復元作業
左・復興に向けた作業が進む首里城。「仮設見学デッキ」から正殿などの復元作業を見ることもできる。右・焼損した赤瓦なども見学コースから見ることができる(首里城で)

立ち寄り先のいたるところで、首里城復興やなはーとに対する強い期待を聞かされ、その気持ちに強く心を揺さぶられたといいます。世界各地で展覧会やインスタレーションを制作している塩田さんですが、「こんな熱い思いに触れることはないです。自分にとっても普通の展覧会とは違う、特別な機会になります」。

市民からも大きな期待

世界的なアーティストである塩田さんのインスタレーションを見られるとあって、那覇市民の関心は強い。担当学芸員の仲嶺絵里奈さんは「一般の方からも早く見たい、という声が届いていて、盛り上がりを感じます。本当に貴重な機会なので、ぜひ多くの方に足を運んでほしいです」と話します。塩田さんは「なはーとが、大人も子供も日常とは違う時間を気軽に楽しめる場所になればいいですね。今回のインスタレーションも、そうした劇場の雰囲気づくりに役立てればうれしいです」と話していました。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)

塩田千春インスタレーション「いのちのかたち」
会場 那覇文化芸術劇場 なはーと 小スタジオ、ロビー(那覇市久茂地、沖縄都市モノレール「県庁前」駅、「美栄橋」駅からそれぞれ徒歩6分程度)
会期 2022年2月20日(日)まで
開場 9時~21時30分(休館日を除く)※閉館時間が変更になる場合があります
入場無料 一部有料、300円。問い合わせは、那覇文化芸術劇場 なはーと(電話098-861-7810)
公式ホームページ

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塩田千春(しおた・ちはる)
現代美術家

1972年、大阪府生まれ。ベルリン在住。生と死という人間の根源的な問題に向き合い、その場所やものに宿る記憶といった不在の中の存在感を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作する。

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