若者から広がる、酒を飲まない生活「ソーバーキュリアス」とは

酒を病気や体質とは関係なく、あえて飲まない生活スタイルへの関心が高まっている。こうしたスタイルを表す「ソーバーキュリアス」という海外発の造語も知られるようになった。自分の時間を有効に使いたいという意識の高まりなどが背景にあるようだ。

時間を有効活用 若者から広がる

「人生の残り時間を考えると、酔っ払っている時間や二日酔いの時間がもったいなくなった」――。小説家の桜井鈴茂さん(53)は昨年1月、毎日のように飲んでいた酒をやめた。

それまでは飲んだ後で悔やむことが多く、「数日、酒を抜こう」と実践して驚いた。「一日がこんなに長いとは。本を読んだり映画を見たり、いろいろなことに時間を使える」。飲酒しなくなってからは眠りが深く、翌朝も心身がスッキリしている。

おいしいと感じるノンアルコールのビールやワインテイスト飲料を知ったことも大きかった。他の人にも楽しんでもらおうと、通販サイトを始め、今年5月には東京都目黒区に飲食店「ローアルコホリックカフェ マルク」を開店。「今の忙しさは飲み続けていたら乗り越えられなかった」

飲食店「ローアルコホリックカフェ マルク」のカウンターに立つ小説家の桜井鈴茂さん
店のカウンターに立つ桜井さん。ノンアルコール飲料が多数そろい、「まるでお酒を飲んでいるような気分になれますよ」(東京都目黒区で)

英語の「sober(しらふ)」と「curious(好奇心が強い)」を組み合わせた「ソーバーキュリアス」は、英国出身のジャーナリスト、ルビー・ウォリントンさんが2019年刊行の著書で打ち出したとされる。日本でも今年11月に「飲まない生き方 ソバーキュリアス」のタイトルで方丈社から翻訳出版され、売れ行きは好調だ。

ソーバーキュリアスは特に若い世代で支持を集める。厚生労働省の19年国民健康・栄養調査で、酒を飲まない層は55%と半数を超え、元々飲めるが「ほとんど飲まない」と「やめた」の合計は18%。20代に限ると27%だった。

ニッセイ基礎研究所の久我尚子さんは「若い世代の消費行動は合理的で、時間を有効活用したい思いが強い。飲酒は費用対効果が低いと考える」と分析。コロナ禍で健康意識が高まったこともあり、「全世代で今後、実践者が増えていくだろう」とみる。

飲酒習慣 内外で問い直し ノンアル商品等拡充

飲酒習慣への警告は、世界的な潮流だ。世界保健機関(WHO)は10年、過度な飲酒を減らす指針を採択。国連のSDGs(持続可能な開発目標)でも「アルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する」としている。

販売されているノンアルコールや低アルコールの飲料
酒に近い雰囲気で楽しめるノンアルコールや低アルコールの飲料

このため、酒販業界では近年、「適正飲酒」の取り組みが進んできた。アサヒビールは「スマートドリンキング」、サントリーは「ドリンク・スマート」、キリンは「スロードリンク」と銘打ち、ノンアルや低アル商品の拡充、アルコール量の記載などを展開中だ。こうした動きもソーバーキュリアスを後押しする。

民間の調査機関「酒文化研究所」の山田聡昭さんによると、仕事の付き合いなどで、周囲から飲酒を強要されることが減っていた上、コロナ禍で人付き合いが限られ、飲酒自体の意味を問い直す機運も生まれたという。「飲む人だけでなく、飲まない人や、TPOや体調に合わせて上手に使い分けたい人にとっても、好ましい環境が整ってきた。飲酒文化が成熟したとも言える」と指摘する。(読売新聞生活部 福士由佳子)

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