話題の「トイレの最中」、開発現場は「衛生陶器」への情熱がすごかった

2021年にネットで話題になった「トイレの最中さいちゅう」。住宅設備大手・LIXIL(リクシル)が、愛知県常滑市の工場見学の際に渡しているお土産で、洋風便器の形をしたモナカです。ユニークな菓子が生まれた現場を取材しました。

話題のモナカが誕生したのは、古くからの焼き物の町・愛知県常滑市にあるLIXIL榎戸工場です。名古屋から名鉄特急で南へ30分、知多半島の西岸に位置します。ここでは、便器や洗面器などの「衛生陶器」を製造しています。

榎戸工場のモニュメント
INAXはLIXILのブランドのひとつ。青い部分は、ミニチュア洗面器を敷き詰めている

工場案内チームの高山歩実さんに製造工程を案内してもらいました。広大な敷地に入ると、ミニチュア便器でできたモニュメントが出迎えてくれます。便器への愛着とこだわりが伝わってきます。

トイレの製造過程
型を外したまだ軟らかい状態の便器

便器は泥水状の原料を型で成形し、乾燥させてから、釉薬ゆうやくなどを塗布して焼き上げて完成します。ちょうど、型から外された、できたてほやほやの便器がずらりと並んでいました。乾燥前でまだ軟らかいので、ゆがんだり変形したりしないよう、扱いには熟練の技が必要だそうです。

釉薬を塗る工程で、きびきびと働いていたのはロボットです。職人の動きを覚えさせた最新のロボットということで、撮影は不可。なめらかで、かつキレのある動きに、見ほれてしまいました。

トイレの製造工程
全長100メートルの焼成路を抜けると焼き上がる

そして、全長100メートルの焼成炉を24時間かけて通すと焼き上がりです。炉の中央部分は1220度もあり、遠くからのぞいてもメラメラと揺らぐ炎が見えます。

モデルの便器はサティス

便器の製品検査
便器の製品検査、手前がSATIS

最後に製品検査が行われます。トイレ形モナカのモデルとなった「SATIS」(サティス)シリーズも並んでいました。2001年に誕生したSATISは、「トイレを応接間に」をキーワードにした革新的商品で、タンクレスのコンパクトなデザイン。グッドデザイン賞の金賞を受賞しています。

人生初のトイレ工場見学で気分が高揚したところで、「トイレの最中」の誕生について、担当者に話を聞きました。

「トイレの最中」の開発メンバー
「トイレの最中」の反響に驚く大蔵餅の稲葉社長(左)、皿井さん(右)ら

榎戸工場には、取引先などの関係者が年間8000人ほど見学に訪れるそうですが、新型コロナウイルスによって2020年3月から、見学を停止せざるをえなくなりました。そこで、工場案内チームでは、再開した際の見学活性化策として、特別なお土産作りに着手。「地元の菓子店などとコラボして、トイレの形のお菓子を作りたいというアイデアがでました」と、チームリーダーの皿井理絵さんは説明します。

皿井さんたちは20年6月ごろ、地元の老舗和菓子店「大蔵餅」の稲葉憲辰社長に話を持ちかけました。稲葉社長は「常滑は『衛生陶器』の町ですから、面白い話を持ってきてくれて、うれしかった。子供の頃のようにワクワクしました」と振り返ります。話し合いの末、洋風便器の形をしたモナカを作ることになったのです。

別付けのあんが多めの理由

トイレの最中の皮
皮の初号機(左)と完成品。便座部分と本体を接合するツメの位置や焼き加減などを改良した

まず、型を作るところから始めなければなりません。工場で型の設計を担当する新海貴浩さんが、コンピューター利用設計(CAD)で設計しました。「トイレのデザインを損なわずに、モナカとしておいしく食べられる形を追求しました」。21年に20周年を迎えるサティスのボディーを、本物の10分の1サイズ、縦59ミリ、横37.5ミリ、高さ41ミリで再現しました。本物と違うのは、ふたがないことです。

日持ちも考えて、あんこは別付けに。「自分で入れてもらったほうが面白いでしょう」と、稲葉社長。北海道の小豆を使った粒あんです。「こんもり入れられるよう、たっぷり袋にいれました」と笑います。

パッケージもこだわっています。「やっていることがふざけているので、箱はスタイリッシュにしました」(稲葉社長)。名前は、「トイレの最中」。21年6月から、オンラインでの工場見学者に2個セットになったものを郵送でプレゼントし始めました。郵送時の外箱も、トイレを出荷するときの箱のデザインと同じだそうです。

「トイレの最中」を販売する大蔵餅
「トイレの最中」を販売する大蔵餅

手にした人がツイッターで8月ごろに紹介したのをきっかけに、全国から問い合わせが寄せられるようになったそうです。そこで、当初の予定にはなかった大蔵餅の店頭販売も始めましたが、数量が少ないので開店前に並んだ人の分で完売してしまうそうです。工場の見学は一般向けではなく取引先などの関係者向けであること、大蔵餅での販売もごく少量のため、入手は非常に困難になっています。

リアルすぎて食べるのに戸惑い

予想外の反響に皿井さんは、「トイレを作っている会社が、トイレのモナカを食べるという発想の面白さと、見た目のリアルさがうけたのではないでしょうか」と分析します。「コロナで大変なときだから、笑ってもらえる商品を出す意味があると思いました」と稲葉さん。海外メディアでも取り上げられ、地元での関心も高まっています。

いただいたモナカを持ち帰り、食べてみました。皮は厚みがあって硬く、バリッと思った以上に快音が響きます。とても香ばしく、あんの甘さとの対比がいい。口に入れる瞬間の戸惑いはありますが、とてもおいしいモナカです。

「衛生陶器」という呼び方を今回の取材で知りましたが、「モナカをきっかけにトイレに関心を持ってもらいたい」という関係者の熱い思いが伝わってきました。トイレ製造への誇りや遊び心、情熱が、地域や業界の活性化につながったのでしょう。そしてそれこそが、世界に誇る日本のトイレを生み出す原動力になっているのかもしれません。

(読売新聞メディア局 小坂佳子)

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