健常者と同じスカート・・・SDGsが変えたファッションの楽しみ方

10月下旬、東京・渋谷である試着会が行われた。

アパレル大手のアダストリア(東京)が、「誰もがファッションを楽しめる世の中に」をテーマに掲げた事業で、開発した服だ。例えば、シャツのボタンを握力が弱くても留めやすいスナップボタンにするなど、着脱しやすいような工夫が施されている。

参加した東京都墨田区の会社員、小沢綾子さん(39)は「何より普通にかわいいのがうれしい」と声を弾ませた。全身の筋肉が次第に衰える難病「筋ジストロフィー」で、3年前から車いす生活を送る。

アダストリアの社員が車いすの障害者にコーディネートを説明
アダストリアの社員からパーカに合わせたコーディネートを教えてもらう小沢さん(左)(東京都内で)

服選びは苦労と諦めの連続だという。ズボンは脱ぎはきが大変なためにウエストがゴムのスカート、トップスはボタンが留められないのでゆったりとしたかぶりものが多い。「着たいものは着ることができず、かわいくないなあと思いながらも、仕方なく買うこともあった」と打ち明ける。

アダストリアがこの事業を始めたきっかけは、同社でデータ分析などを担当していた坂野世里奈さん(39)の介護経験だ。2017年にがんで亡くなった父親はおしゃれ好きだったが、晩年寝たきりになると、着替えや洗濯のしやすさを優先して服を着せていた。

その後悔から、「病気や障害のある人もおしゃれを楽しめるようにしたい」と新規事業の社内公募に提案した。関連会社で働く障害のある社員たちの協力を得て、ファッション性と機能性の両立を心掛けながら開発したという。

個人の魅力に合わせた服作り

厚生労働省によると、身体や精神などに障害のある人は全国で推計964万7000人にのぼるが、障害の種類や状況は様々。衣料品メーカーが、それぞれのニーズにかなった衣服を市販することは難しかった。障害者は、何とか着られるものを探すか、体に合わせて手直しをするのが一般的だった。

しかし、国連が掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」への関心が高まる中、ダイバーシティー(多様性)やインクルーシブ(包括的)といった言葉がファッション業界のキーワードに浮上。障害の有無や性差、年齢にとらわれず、誰もが着やすく、楽しめる服作りが始まっている。

アダストリア取締役の福田泰己さん(43)は「ファッションを提供するだけではなく、ファッションを楽しむ環境をつくることも重要。業界全体でインクルーシブファッションを盛り上げる旗振り役を担っていきたい」と力を込める。

昨年創業したソリット(東京)は、車いすの人が着られることを前提に商品を開発する。素材は伸縮性と耐久性のある化学繊維。ジャケットは肩周りをスムーズに動かせるようにアームホールを広めにしたり、パンツは座ったときのシルエットがきれいに見えるよう後ろ身頃を長くしたりするなどの工夫を凝らす。

すべてセミオーダーで1600通り以上のデザインに対応できる。障害のない人からも好評で、韓国やドイツなど海外からの問い合わせもあるという。同ブランド代表の田中美咲さん(33)は「服に人を合わせるのではなく、人それぞれの魅力に合わせて服を選べるようにしたい」と話す。

ユナイテッドアローズやトミー・ヒルフィガーなども、障害者が着脱しやすい服を取り扱っている。

障害の有無を問わずにはけるユナイテッドアローズのスカート
障害の有無を問わずにはけるユナイテッドアローズのスカート(提供写真)
ファスナーを開閉する金具にヒモをつけたジャケット
着脱しやすいように、ファスナーを開閉する金具にヒモをつけるなどしたトミー・ヒルフィガーの商品(提供写真)

文化服装学院の研究機関「文化・服装形態機能研究所」副所長の高見沢ふみさんは、国内でもファッションの多様性が広がってきた背景について、SDGsに関する意識の高まりや東京パラリンピックの開催などをあげる。「ファッションを楽しみたい気持ちはみんな同じ。少し工夫をすることで着やすくなる。障害の有無にかかわらず誰でもほしい服を選択でき、着たい服を着られる社会になってほしい」と話している。(読売新聞生活部 梶彩夏)

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