NHKは2021年も「紅白」やめない、男女で分ける演出の意義とは?

大みそかに放送する第72回紅白歌合戦は出場歌手が発表され、まふまふ、Awesome City Club、上白石萌音、KAT-TUNら初出場10組を含む43組が決まりました。ジェンダーフリーや多様性を認める意識が高まる中で、女性と男性を紅白に分けて勝敗を決める男女対抗戦方式は「違和感がある」「時代遅れ」などの批判もありますが、今年も大幅な見直しには至らず、社会との大きな隔たりが残ったままです。

出場歌手に先立って行われた司会者の発表では、「紅組司会」「白組司会」「総合司会」の区分を廃止し、川口春奈、大泉洋、NHKの和久田麻由子アナウンサーの3人が「司会」に。「今年のテーマ」については、コロナ禍で失われた生活の彩りを取り戻し、多様な価値観を認め合おうという思いを込めて「Colorful~カラフル~」としました。

司会者の区分廃止は、従来の性別による役割や分担にとらわれないジェンダーフリーの考えに基づく変更です。テーマの「カラフル」は性別・国籍・人種・年齢などの違いを認めあう多様性を尊重したメッセージ性があり、紅白歌合戦の変化を期待させました。

選考基準の『世論』って一体どこ?

ところが、出場歌手が従来通り紅組・女性、白組・男性で発表されると、テレビコラムニストの桧山珠美さんは、「司会者の呼び方やテーマのカラフルは小手先のごまかし。出場歌手の顔ぶれを見ても、だれがこの人を求めているのか首をかしげたくなります。このままでは、視聴者の紅白離れが加速するのは間違いありません」と厳しく指摘します。

2019年の紅白で氷川きよしが「きよし君にサヨナラ」と宣言したことが話題になりました。その後、「自分らしさ」を追求する姿勢が話題になるなどジェンダーレスな活躍を続けています。「今回も白組から出場する氷川さんが『もう、こんな紅白いやだー』と紅白歌合戦の看板を破り捨てるくらいしないと、紅白が社会から見捨てられるほうが早いかもしれません」と桧山さんは忠告します。

NHKは紅白出場歌手の選考について、〈1〉今年の活躍〈2〉世論の支持〈3〉番組の企画・演出――の3点を中心に、CDの売り上げ、ライブ実績、アンケート調査などを検討し、総合的に判断したとしています。

「NHKの言う『世論』って一体どこにあるんだろうって思います。出場者の顔ぶれをみると、世論の支持というより、明らかに『NHKへの貢献度』ですね」といぶかる桧山さん。「女性演歌歌手の後ろでジャニーズメンバーが腹筋してみたり、ベテランの男性歌手を女性アイドルグループが取り囲んだりする演出は、昭和の慰安旅行の宴席かとツッコミたくなります。偏見に満ちた男女の役割を感じさせるパフォーマンスを見て、誰が喜ぶのだろう」と疑問を投げかけます。

写真撮影に臨む紅白歌合戦初出場歌手 読売新聞 大手小町
写真撮影に臨む紅白歌合戦初出場歌手(高橋美帆撮影)

ジェンダーに詳しい武蔵大学社会学部の千田有紀教授は、「紅白歌合戦が始まった1950年代は、男女ごとに出演者を選ぶことで男女平等を促す狙いもあったのでしょう。紅組司会に女性、白組司会は男性とし、それぞれが女性チーム、男性チームを率いる構成にすれば男女比を半々にすることができます」と男女対抗戦形式の意義を説明します。

「NHKは公共放送として、人権の尊重、公正・公平、少数者や障害者への配慮などの観点から番組内容が適正かどうか考えなければいけません。さらに、幅広い視聴者を考慮し、出演者の性別や年代のバランス、構成や演出内容に偏りがないか検討する必要があります」と公共放送の社会的影響力の大きさを懸念します。

テレビを視聴することが生活の一部となっていた時代には、多くの人が山口百恵や松田聖子のような国民的アイドルに夢中になり、誰もが歌詞を口ずさんでしまう「およげ!たいやきくん」のようなヒット曲がいくつも生まれました。

それが、インターネットやデバイスの発達に伴い、音楽の楽しみ方はジャンル、アーティスト、場所や方法など、人それぞれに細分化されていきました。音楽配信サービスを利用して、気に入ったアイドルの楽曲をオリジナルでプレイリストにまとめて聴くこともあれば、日々の音楽体験に基づいてAIがレコメンドした楽曲に耳を傾けることも。

一人ひとりの感性が音楽を選ぶ基準となるため、ある特定の曲が爆発的なヒットを飛ばすことは少なくなりました。音楽シーンのこうした状況を踏まえた上で、さらに、性別や年齢など多様性への配慮が求められるとあっては、すべての視聴者が満足する紅白歌合戦を作り上げるのは至難の業と言えそうです。

千田教授は「親子はもちろん、祖父母を含めた3世代からの支持を得る嵐は、紅白を延命できる頼みの綱でしたが、昨年末に活動休止となってしまいました」と紅白が厳しい状況にあると指摘します。

紅白の男女対抗形式を巡っては、2020年に「香水」のヒットで初出場した瑛人さん(24)が「俺、何組ですか?」と周囲に確認したというエピソードがあります。テレビのバラエティー番組で問いただされた瑛人さんは、「白組が男性、紅組は女性、そこまで気にして見ていなかった」と説明。男女で分けた対抗戦方式も勝者に授与される優勝旗のことも知らなかったと打ち明けていました。

千田教授によると、男女共同参画社会基本法が施行された1999年以降に育った20代の若者は、性別で分けるという考え方に馴染みがないといいます。学校の名簿は男女混合、ランドセルは、女子が赤、男子は黒と決まっていません。色も柄は多彩になり、自分の好みのカラーを選ぶようになりました。

「今回の発表内容からは、紅白には歴史の重みがあって、番組のタイトルにも『紅白』と掲げていることから、看板をすげ替えたり、従来のやり方を急変させたりといった大改革は難しいのだろうと感じられます。しかし、踏襲していては、視聴者が離れていくのではないでしょうか。今回の『カラフル』をきっかけに、これから数年かけて変わっていこうとしているのかもしれません。変化に注目していきたいですね」と千田教授は話しています。

2021年の紅白歌合戦の出場歌手
2021年紅白歌合戦の出場歌手(NHKのホームページより)
Keywords 関連キーワードから探す