安藤桃子、七光り八起きの半生つづったエッセー集は「ぜんぶ愛」

OTEKOMACHIでお悩み相談の回答者を務める映画監督の安藤桃子さんが、半生を振り返るエッセー集「ぜんぶ 愛。」(集英社インターナショナル、税込み1650円)を11月5日に出版しました。出版にあわせて、芸能一家で育ったこと、移住先の高知での仕事や子育てについて聞きました。

――7年前、映画「0.5ミリ」のロケ地だった高知県に移住されました。

「最先端はここだ!」と直感し、3秒で移住を決めました。当時、市内を一望できるビルの屋上に父(俳優で映画監督の奥田瑛二さん)と行きました。2人で市街を見渡していたとき、坂本龍馬が刀を抜くがごとく、これ以上にないタイミングで「私、ここから革命を起こします。だから高知に移住します」と宣言しました(笑)。自然と「革命」という言葉が出てきたのですが、「時代劇か!」と自分で突っ込みたくなるくらい。父は「おう」とだけ答えました。

山、川、海、三拍子そろっている食の宝庫。包み込んでくれるような大自然と、大地の力強さを吸収して育ったような明るい人々。人も水も食べ物も生命のままに存在している場所で、自分もあるがままでいられます。住んでみて、「自分が見たかった景色、求めていた世界はやっぱりこれだった」と、後から一つ一つ答え合わせしている感じです。

初のエッセー集を出版した安藤桃子さん 大手小町 読売新聞
安藤桃子さん

「芸能人の娘」のレッテル

――父が俳優で映画監督の奥田瑛二さん、母がエッセイストでコメンテーターの安藤和津さん、妹が女優の安藤サクラさんです。幼少期のユニークなエピソードや、15歳の時、単身で渡った英国での波乱万丈な留学生活もつづられています。

かなり型破りな父と朗らかな母、いろんな人が出入りする家で育ち、3歳頃まではエネルギーをさく裂させる子どもでした。物心ついてからは、何をしても「芸能人の娘」というレッテルを貼られることを気にして、引っ込み思案に。母からは、「お母さんやお父さんがテレビに出させてもらっているけれど、偉いわけじゃないし、もっと言うと、あなたが偉いと思うなかれ」といつも言われていましたね。

「親の七光り」という呪縛から逃れるように留学しました。それが今では「父の仕事だから」と遠ざけていた映画の仕事をすることになるなんて、そのころは思ってもいませんでした。今視点を変えてみれば、コンプレックスも苦労した経験も、学びや成長のためにあったのだと思えます。

――高知に移住してから、結婚して出産、離婚もされ、「女の一生濃厚凝縮感情のジェットコースターの日々」だったとのこと。

高知では、子どもをみんなで見守り、一緒に育て合うという感覚が強く、とても助けられています。小学1年生の長女は、幼稚園に入ってからはほぼ毎日、朝から午後7時まで園で預かってもらっていましたし、今も泊まりがけの出張の際などは、仲良しの3家族が持ち回りで娘をみてくれます。困っていても、いなくても、いろんな人が声をかけ、手をさしのべてくれる。子育てと仕事の両立に悩んで落ち込んだこともありましたが、「愛は時間じゃない、密度だ!」という母の一言に救われました。

愛は分かち合うと増える

――高知市内にミニシアターを設立したり、子どもたちと様々な体験をするチームを結成したり。いろいろな分野で映画監督という枠に収まりきらない活動をされています。

映画監督という肩書はありますが、思い描いたイマジネーションを具現化することが自分の仕事だと考えています。そのひとつに全ての子どもたちが笑顔になる未来を目指して、異業種の大人たちと作ったチーム「わっしょい!」があります。子どもたちとお味噌づくりをしていて、その元になる大豆から畑で育てたり、感性が育つ貴重な時期に、さまざまな体験をさせてあげられたらと思っています。地域で一緒になって、子どもたちを育んでいきたいですね。

消費社会では使うとなくなると思いがちですが、愛って分かち合うとどんどん増えていくんですね。自分の子どもにも「分けると増えるよ」「ありがとうは巡り巡って返ってくるよ」と伝えています。エッセーを書くことで、これまでの人生の経験は、善しあしではなく、全部愛に基づいていて、それによって今の私が作られていることに気付けました。ラブレターだと思ってつづっています。

初のエッセー集を出版した安藤桃子さん 大手小町 読売新聞
初のエッセー集を出版した安藤桃子さん

――お悩み相談でも、相談者に対する安藤さんの温かいまなざしが好評です。

進路や選択に迷うときには、何かと都合を優先しがちな社会ではありますが、一度きりの人生だから、自分の心の、内なる声を聞いてあげてほしいなと思います。

子育てに悩む人は、たとえ1日1分であっても自分に意識を向け、自分のための時間を作ってみてほしい。私も、育児などで余裕がなくなって、いっぱいいっぱいになってから気付くタイプなので、気持ちがよくわかります。例えばゆっくり味わってお茶を飲んでみるだけでも、安心感につながるのではないでしょうか。母だって愛を与えるばっかりでなく、自分をいたわってあげることが大切。これからもお悩みに寄り添わせていただけたら、幸いです。

(聞き手・読売新聞メディア局 谷本陽子、写真は安藤さん提供)

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安藤 桃子(あんどう・ももこ)
映画監督

1982年、東京都生まれ。高校時代よりイギリスに留学し、ロンドン大学芸術学部を卒業。その後、ニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て2010年「カケラ」で監督・脚本デビュー。14年に、自ら書き下ろした長編小説「0.5ミリ」を映画化。同作で報知映画賞作品賞、毎日映画コンクール脚本賞、上海国際映画祭最優秀監督賞などを受賞し、国内外で高い評価を得た。「0.5ミリ」の撮影を機に高知県に移住。ミニシアター「キネマM」の代表や、表現集団「桃子塾」の塾長、ラジオ番組「ひらけチャクラ!」(FM高知)のパーソナリティーも務めている。子どもたちの未来を考える異業種チーム「わっしょい!」では、農業、食、教育、芸術などの体験を通し、子どもの感性を育む活動にも力を注いでいる。

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