投票日が迫る衆院選で、1996~2010年ごろに生まれた「Z世代」と呼ばれる若者たちが注目されています。子育てや教育などの若者対策を各党が公約に打ち出し、Z世代の票の掘り起こしを狙っています。社会的課題に関心が高いとされ、情報の収集・発信にツイッターやインスタグラムを使いこなす「SNSネイティブ」。Z世代の特徴や価値観について、若者研究機関「SHIBUYA109 lab.」所長の長田麻衣さん(30)に聞きました。
Z世代はこれまでと全然違う
「だれかと親しくなったとき、最初に何を交換しますか?」
Z世代の実態を調査するため、毎月、20歳前後の若者約200人と会っている長田さんは、「日常的な連絡ツールに何を使うかは世代によって違いが表れる」と指摘します。
連絡手段に「電話番号」や「メールアドレス」を交換するのは、1965~1980年生まれのX世代です。携帯電話がなかった時代は、意中の相手に固定電話の番号をメモした紙片を渡すというアプローチをしたそうです。自宅で電話が鳴るのをドキドキしながら待った経験のある50代もいるでしょう。
「LINEのアカウント」を交換するというのが、1981~1995年生まれのY世代では一般的です。Z世代は、「インスタグラムのアカウント」を連絡先として交換するのが主流となっています。
Z世代にとって、LINEは親密な友人、家族、恋人など、特定の人とのやりとりを行うコミュニケーションツールとなっているため、LINE のアカウントを教えるのを怖いと感じる若者も少なくないそうです。
インスタのアカウントを交換すると、投稿した写真などを通して自分の趣味や好みを知ってもらうことができます。投稿した写真や動画に「これ知ってる」「今度ここに行きたい」などのメッセージを書き込み、共感するモノやコトを互いに把握しながら親しくなることができます。
長田さんは、Z世代の特徴として「SNSの使い方や情報への接し方がこれまでと全然違う」と強調します。例えば、横浜アリーナへ初めて行くことになったら、ほとんどの人は地図アプリを使って、場所や経路を調べます。これに対して、Z世代はYouTubeで道順を調べます。最寄りの駅から横浜アリーナまで、実際に歩いて向かう動画がアップされています。右左折などのポイントでは、目標となる実際の建物や店が映し出されているので、間違える心配がありません。
旅行プランを練るときも、同じようにYouTubeを活用します。2泊3日の北海道旅行や1泊2日で大阪・京都を巡る場合、「北海道、観光、ルート」や「京都、大阪、1泊2日」で検索し、実際に旅している動画を見ながら、観光スポットや地元グルメを効率よく回る計画を立てます。

周囲から浮きたくないという同調志向
Z世代が重視する価値観として、長田さんは「再現性」と「関係性」というキーワードを挙げます。
「再現性というのは、みんながまねすることができ、だれでも同じように体験できるということです。Z世代が注目するインフルエンサーは、HIKAKIN(ヒカキン)やはじめしゃちょーといった有名人ではなく、友達の友達くらいの距離感の人物です。その人の動画の撮影スタイルや写真の撮り方をまねして、まったく同じように再現してみせることがトレンドになっています」
インフルエンサーが動画で紹介していたカフェに行って、窓側のこの席に座って、この角度から、このスイーツを映し、一口食べたら同じコメントをする――。仲間うちで人気のインフルエンサーの再現動画は、友達から「この動画見たことある。あれでしょ」などのコメントが寄せられ、盛り上がるのだといいます。
SNSが当たり前のZ世代は、高校のクラス、部活動、趣味の仲間など所属するグループごとに、SNSによってその関係がいつまでもつながっています。そのため、友達や仲間との「関係性」を気にする傾向が強く、仲間と一緒にどんな体験や娯楽が楽しめるか、友達と心地良い時間を過ごすにはどうすればいいか、ということを第一に考えます。
関係性を重視するZ世代は、周囲から浮きたくないという同調志向もあり、悪目立ちをするようなとっぴな行動をしたり、羽目を外したりすることはありません。長田さんは「SNSで多くの情報に接しているため、炎上や失敗を恐れて、行動が慎重になりすぎている面もある」と分析します。
Z世代の行動の決め手
なぜ、Z世代は「再現性」や「関係性」を重視するのでしょうか。長田さんは、「Z世代の行動の決め手となるのが、『コミュニケーションを生むほうを選ぶ』という判断基準」と補足します。
「だれも知らないオリジナルの世界観や特異な趣味よりも、みんなが好きなモノやコトを体験したり、話題の動画をそのまま再現したりするのは、それが仲間の共感を得やすく、話題として盛り上がるからです」
関係性という点では、仲良しの友達同士で人気のスイーツを食べに行くときなどに、あらかじめ相談してファッションの色味を合わせるといった行動もZ世代に特徴的です。SNSに写真を投稿したときに、2人の関係がどのように見えるかを気にするそうです。「仲良さそう」「リンクコーデで良い感じ」と好意的なコメントをもらうのが、何よりも楽しいのです。

Z世代45%が「必ず投票する」
Z世代以前の若者は「クルマ離れ」「お酒離れ」「ファッション離れ」などと言われ、消費活動から距離を置く特徴がありました。SHIBUYA109 lab.が今年2月に行った「若者のお金に対する意識・実態」(18~24歳の男女400人)では、Z世代の消費の特徴として、普段からポイントを貯める習慣や節約意識が高い一方で、自分が価値を感じるものにはお金をつぎ込む意向があるとしています。
財布のひもを緩める例として、長田さんは、「アイドル、アニメ、声優などのいわゆる『ヲタ活』にアルバイト代をすべてつぎ込むという大学生もいますし、話題のグルメやスイーツにはお金を惜しまないという子もいます」と話します。
7月には「Z世代の政治に関する意識調査」(18~24歳の男女400人)を行っており、今回の衆院選について、「必ず投票する」という回答が45.8%を占めました。「投票したいがまだわからない」(32.0%)を合わせた投票意向は、実に77.8%に上りました。
関心のある政策については、「新型コロナ対策」「税制度」「LGBTQ関連政策」「子育て支援」「女性の活躍」などを挙げ、若者の生活に影響がある課題や情報の接触頻度が高い話題を通して、政治や選挙への興味が高まっているとしています。
選挙のたびに若者の投票率の低さが取りざたされます。コミュニケーションを生むほうを選ぶZ世代にとって、投票することが、仲間との話題として盛り上がるかどうか。Z世代の投票行動が気になります。
(読売新聞メディア局 鈴木幸大)