【2021衆院選 くらしの課題】選択的夫婦別姓のメリット・デメリット

衆院選の投開票が31日に迫っている。次の政権はどんな視点で選べばいいのだろうか。くらしに関わる課題や論点、対策について、各分野で専門家2人に聞いた。下は選択的夫婦別姓について。

改姓 想像超える不便さ

サイボウズ社長 青野慶久さん

2001年の結婚時、妻の姓「西端」を選択した。妻が自分の名前が変わることへの違和感を口にしたのがきっかけだった。当時すでに、企業役員として旧姓「青野」で知られており、仕事では旧姓を使い続けることにした。旧姓で働く女性を見て、「自分も何とかなるだろう」と楽観視していた。ところが、働く上では不都合だらけで、「選択的夫婦別姓」の早期導入を求める立場に至った。

青野さん
あおの・よしひさ 1971年生まれ、愛媛県出身。大阪大工学部卒業後、松下電工(現パナソニック)入社。97年、ソフトウェア開発会社「サイボウズ」を設立。2005年から現職。

免許証や保険証、銀行口座の氏名の変更はもちろん、経営者としては登記の役員名の書き換えも面倒だった。今は旧姓が併記できるようになっている場合もあるが、いずれにせよ書き換えの手間はある。

グローバル社会で海外とやりとりする際、通称使用の限界も感じる。取引先には「青野社長」として認識され、契約書などでも「青野」を使いたいが、海外企業は原則、契約時に戸籍名しか認めない。「青野」と「西端」の両方の印鑑を持ち歩き、その都度、社内の法務担当にどちらが使えるか確認している。パスポートは旧姓併記できるようになったが、国際的には例外。渡航先の入国審査で説明を求められるなど、不便さは否めない。

日本では夫婦の9割以上が夫の姓を選んでいる。国はあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を30%程度にする目標を掲げるが、改姓はキャリアの形成上、不利益が大きい。

実際、社内で旧姓を使う女性役員が、副業で外部から報酬を得る際、振込口座の戸籍名と一致しないとして苦労する場面も見ている。女性活躍をうたうならば、働きやすい環境を整えるべきだ。

戸籍法では日本人と外国人との結婚では別姓が選べるが、日本人同士だと選べないのは、法の下の平等を保障する憲法に違反するとして、国を相手に損害賠償を求める訴訟も起こした。6月に棄却されたが、納得はしていない。

4月から「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」共同代表として、経済界で実現に向けた署名を集めている。日本を代表する大企業の役員らが賛同し、集まった約700人分の署名を今後、提出する。経済界から多くの要望が集まっていることを、国は真摯しんしに受け止めてほしい。

別姓 子に不利益の恐れ

長崎大准教授 池谷和子さん

家族は子どもの成長を支える基盤として、愛情を受け、安心感や信頼感を抱けるような安定した共同体であることが重要だ。姓は家族というグループの名前で、構成員が同じ姓を持つことで結び付きは強まる。子どもの利益を第一に考えるなら、夫婦別姓は望ましくないと言える。

池谷さん
いけや・かずこ 1972年、神奈川県生まれ。東洋大大学院法学研究科博士課程修了。専門は憲法、未成年者保護法。子どもの保護の観点から研究に取り組む。

夫婦別姓では、結婚時に夫と妻のどちらの姓にするかを考えなくて済むが、子どもが生まれた場合は、その姓を夫婦のどちらにするか選ぶ必要に迫られる。選択次第では、夫婦間の関係悪化につながる懸念もある。さらに子どもが複数生まれ、兄弟姉妹で異なる姓にするケースも考えられる。いずれも家族の一体感を損ね、子どもの成長にとってはマイナスが大きい。

別姓か同姓かを選べる選択的夫婦別姓制度を導入した場合、より悪影響があると危惧する。別姓を選択した家庭の子どもが、同姓の家庭の子どもと自分を比べ、家族からの疎外感を抱くこともあるだろう。いじめなどの原因になる恐れもある。

夫婦別姓の導入を目指す根拠として主に挙げられるのは、現状では〈1〉結婚して姓を変えるのは女性がほとんど〈2〉仕事をしている女性にとって不便〈3〉姓を変えることに違和感があり、変えたくない――といったものだ。

しかし、民法上の規定では結婚時に姓を変えるのは男女どちらでもよい。仕事上の不便は、通称の使用で一定程度カバーできるはずだ。内閣府の2017年の調査では、結婚して姓が変わることについて、「新たな人生が始まるような喜びを感じる」が41.9%、「相手と一体となったような喜びを感じる」が31%、「違和感を持つ」が22.7%で、肯定的な回答が否定的な回答を上回る結果も出ている。

もちろん、姓が変わることでアイデンティティーを傷つけられたと感じたり、不利益を被ったりする女性への対策を講じることは大切だ。民法規定の周知や通称の使用範囲拡大なども進めたい。

子どもの保護という視点は、これまでの夫婦別姓の議論に欠けていたと感じている。個人の自由を重視しすぎると、結果として親の意思が優先されて子どもがおろそかになる恐れがある。何よりも子どもの不利益は避けなければならない。(聞き手=読売新聞生活部・野口季瑛、大郷秀爾)

◆メモ 民法750条は、夫婦は夫または妻の姓を称する、と定める。

選択的夫婦別姓については、法制審議会が1996年に導入を答申したが、「家族の絆が薄れる」といった反対論が根強く、見送られた。だが、国民の意識には変化が見られ、内閣府の2017年の調査では、容認する割合が過去最高の42.5%になった。

衆院選に向け、多くの政党が公約で導入や導入推進を掲げるが、改姓の不利益解消という表現にとどめる党もある。

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