【2021衆院選 くらしの課題】働き方改革はどこまで進んだか

衆院選の投開票が31日に迫っている。次の政権はどんな視点で選べばいいのだろうか。くらしに関わる課題や論点、対策について、各分野で専門家2人に聞いた。中編は働き方改革について。

テレワーク 地方活性化

法政大教授 松浦民恵さん

コロナ禍で在宅勤務の導入が急速に進んだ。一過性の変化ではなく、ウィズコロナを前提として働き方を改める人や企業が増えてきた。

オフィスの地方移転や、全従業員の席はないコンパクトなオフィス、転勤をやめてテレワークで仕事をするなど、地殻変動の兆しが見えてきている。

松浦さん
まつうら・たみえ 1966年、大阪府生まれ。学習院大大学院修了。専門は人的資源管理論、労働政策。政府の審議会委員なども務める。

東京一極集中を緩和し、地方を活性化することは長年の政策課題である。オンラインの浸透で、地方に住んだままでも東京にある会社の仕事をすることができるなど、これまでは難しかった就業機会創出の可能性が広がった。こうした地域をまたいだ就業のマッチングを、政策として後押しすることが、様々な課題解決につながる可能性がある。

在宅勤務で通勤時間がなくなったことで、自分の時間が増えたという人も多いだろう。時間に余裕が生まれたことで、注目されているひとつが副業だ。

一企業内だけでは社員の成長機会が限られるなか、「副業を通じて成長しスキルや経験を本業に還元してほしい」と考える企業もみられるようになってきた。高齢化が進むなか、中高年の社員のセカンドキャリアへのソフトランディングとしても副業には意味がある。

グローバルな人材や高いスキルを持った人材の確保、自律的にキャリアを考える人材の育成に、多くの企業が課題意識を持っている。職務要件を明確にしたうえで、その職務に適した人材を割り当てる、いわゆる「ジョブ型」雇用を模索する企業も出てきた。

ただし、欧米で浸透しているようなジョブ型雇用は、仕事内容が変わらない限り、給与水準も固定化されがちだ。日本企業の社員は、機会は求めるのではなく与えられるもの、与えられた環境で頑張るという意識が根強い。

ジョブ型雇用においては、次はどこで、どんな仕事をしたいのかを自分で考え、その実現のために自分で動くことが重要である。社員の意識改革も必要になるだろう。

また、雇用システムは、教育システムと密接に連動している。入社前のインターンシップや大学における職業教育のあり方なども、政策課題としてあわせて検討する必要がある。

シニア技能向上 政策で

ニッセイ基礎研究所 主任研究員 金明中さん

少子高齢化を背景に労働力人口が減少する中、経済成長を維持していくには高年齢者の労働力は欠かせない。「現役」世代が増えることで医療や介護などの社会保障費支出の抑制も期待できる。

金明中さん
キム・ミョンジュン 1970年、韓国生まれ。慶応大大学院修了。専門は労働経済学、社会保障論。日本女子大非常勤講師なども務める。

4月に、企業に70歳までの就業機会確保を努力義務として課す改正高年齢者雇用安定法が施行された。しかし、現在の労働市場では、高年齢者が存分に活躍できるだけの土壌が整っているとは言えない。

例えば、厚生労働省が1月に発表した調査によると、65歳までの就業確保措置を講じている企業の約80%は、定年の引き上げや廃止ではなく人件費負担の少ない再雇用などの継続雇用制度を採用している。

雇用形態は非正規が多く、賃金も大きく下がるため、労働意欲が損なわれやすい。結果的に生産性も落ちるので企業にとってもマイナスではないか。定年引き上げの検討、再雇用であっても同一労働同一賃金を徹底するなどの対応が必要だ。

年齢を考慮した職場の環境作りも求められる。高年齢者は、就業を望んでも体力や認知能力の問題から、今までと同じ仕事ができなくなることもある。事務仕事が一般的な受け皿だろうが、今後は供給過剰が予測される。コロナ禍で広がった在籍型出向などを活用し、ミスマッチの解消に努めることが望ましい。労働災害への対策、若い世代との役割分担も重要だろう。

長く勤められる環境整備と同時に、社外を含め必要とされる職場に柔軟に異動できる仕組みも構築すべきだ。社内外で職業上の技能を磨くリカレント教育を普及させ、定年後に就労するための教育訓練や研修を受けられるようにする。

労働者は、起業や社会貢献活動への参加など、多様な生活を選択できるようになるだろう。コロナ禍のような急激な企業経営の変化があっても対応しやすい。企業としても、意欲も能力も高い労働者を採用できる。多彩な人材が地域で活躍するようになり、社会の活性化につながる可能性もある。国は民間任せにせず、積極的にリカレント教育の推進策を講じるべきだ。

人生100年時代。誰もが培った知識や技術を存分に発揮できる労働環境を整え、豊かで、活力ある社会が維持されることを望む。(聞き手=読売新聞生活部・福士由佳子、斎藤圭史)

◆メモ 総務省の労働力調査によると、2020年の労働力人口は6868万人。このうち生産年齢と言われる15~64歳は5946万人で、65歳以上は922万人だ。

働く高齢者は増加しており、年齢階級別の就業率は、65~69歳で49.6%、70~74歳で32.5%。10年比でそれぞれ13.2ポイント、10.5ポイント伸びた。

衆院選に向けた各政党の働き方改革に関する公約では、リカレント教育の充実や、テレワークの推進などが掲げられている。

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