ママと離ればなれの赤ちゃんに…小さな命を救う「母乳バンク」とは?

低体重で生まれた赤ちゃんに、寄付された母乳を提供する施設「日本橋 母乳バンク」が開設されてから1年がたちました。記念イベントが開かれ、活動が着実に広がっている一方、ドナーの安定的な確保のためには課題もあることなどが報告されました。

母乳は「薬」のようなもの

母乳バンクでは、早産などにより1500グラム未満で生まれた赤ちゃんに、母親が体調不良などで母乳をあげられない場合、寄付を受け安全に処理された母乳「ドナーミルク」を提供しています。ドナーミルクは国際的な運用基準で管理され、医療機関の要請に基づいて赤ちゃんの元に届けられます。

母乳バンク設立を支援したベビー用品メーカー「ピジョン」が2019年に調査したところ、世界には50か国以上で約600か所の母乳バンクがありましたが、日本には1か所しかありませんでした。日本で最初に開設された母乳バンクが、今春閉鎖されたため、「日本橋 母乳バンク」が国内で稼働する唯一の施設となりました。

母乳バンク ドナーミルク ピジョン 読売新聞 大手小町
ピジョンが開設を支援した「日本橋 母乳バンク」

母乳には、赤ちゃんにとって必要な栄養素がバランスよく、消化しやすい形で含まれています。母乳バンクを運営する、日本母乳バンク協会代表理事の水野克己さん(昭和大学医学部教授)によると、母乳には、体重1500グラム未満の低体重児の病気のリスクを低減する働きがあるとのことです。例えば、生死にかかわる壊死えし性腸炎の罹患りかん率を、粉ミルクの3分の1に低下させる効果があるそうです。「母乳は『薬』のようなものです。救える命を守っていかなければ」と水野さんは話します。

ドナーミルクを活用している病院は増加しており、2021年度は前年の2倍以上の約500人の赤ちゃんに提供できると見込んでいます。ただ、母乳を提供したいと思っても、ドナー登録をするために必要な検診施設が不足し、特にコロナ禍では遠方の施設を訪れることが難しいことなど、ドナーの安定的な確保には課題も残っています。

母親の死を乗り越え

イベントには、実際にドナーミルクを提供された子供とその家族も、オンラインで参加しました。1歳5か月の女の子、めいちゃんは、母親の末期がん治療のため、妊娠24週で帝王切開し、528グラムで生まれました。その後、母親の体調が悪化したため、ドナーミルクが必要になり、母親は出産から6日目に亡くなりました。

めいちゃんは生後9日目からドナーミルクを与えられ、その1週間後には点滴による栄養補給を卒業しました。そして、生後半年で体重が4100グラムになり、退院。今は父親の後追いの真っ最中、姿が見えないと大声で泣くなど元気いっぱいに育っているということです。

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母乳バンクからドナーミルクの提供を受けた、めいちゃんと父親

めいちゃんの父親は当初、母乳バンクの存在を全く知りませんでした。ドナーミルクの話を聞いた時には、すでに妻に意見を聞くことができない状態だったため、「妻は自分の母乳を飲ませたかっただろうに」という戸惑いがありました。それでも同意したのは、ドナーミルクの有効性に関する資料を読んで、妻もきっと娘のことを第一に考えるだろうと思い直したから。父親は「ドナーミルクを提案、提供してくださったことに本当に感謝しています」と話していました。

「自分以外の母乳」に抵抗感

ピジョンでは今夏、妊娠中もしくは3歳未満の子供を持つ母親516人を対象に、母乳バンクに関する意識調査をインターネットで行いました。「母乳バンクの内容を知っている」、「母乳バンクという言葉を聞いたことがある」と答えた割合は、前年の49.5%から65.2%に上昇していました。一方、ドナーミルクの利用対象や必要になる場面などを「よく知っていた」、「なんとなく知っていた」と回答した人は半数を占めたものの、「よく知っていた」と答えた割合は11.8%にとどまりました。

また、「もし自分の赤ちゃんがドナーミルクを利用することになった場合、どのように思いますか」という質問に対して、「抵抗がある」と答えた人の割合は、前年より減少したものの57.6%と過半数に達しました。理由として、「自分以外の母乳を与えることに抵抗がある」、「ドナーミルクに安全上の不安がある」などがあげられていました。抵抗感が依然として強いことがうかがえます。

めいちゃんの父親は、「ドナーミルクや母乳バンクの存在を知らなかったことが、抵抗感につながった」ため、「母乳の有効性について理解した上で判断することが大切だ」と呼びかけていました。ピジョンは、「今後もドナーミルクの必要性や抵抗感を低減するための情報発信を続けるほか、ドナー登録するための施設を増やしていけるよう医療施設に呼びかけるなど、母乳バンクを普及するための支援を続けていきます」と話しています。

(読売新聞メディア局 バッティー・アイシャ)

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