映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」 衝撃的な結末にあぜん

見終わって、あぜんとした。あり得ない。「007」シリーズを長く見続けてきた人ほど、そう思うに違いない。衝撃的な結末だった。

ダニエル・クレイグが初めてジェームズ・ボンドとして登場したのは、2006年のシリーズ21作目「カジノ・ロワイヤル」。以来この25作目まで、クレイグが演じた5本は壮大な一つの物語になっている。今回も前作「スペクター」のラストから、物語は始まる。

英国のスパイ組織MI6を引退したボンドは、前作で恋人となったマドレーヌ(レア・セドゥ)とイタリアでバカンスを楽しんでいる。だが、1人になったところを何者かに襲われる。マドレーヌの裏切りを疑ったボンドは彼女に別れを告げる。5年後。ジャマイカで平穏に暮らす彼は、旧友のCIAエージェントから、誘拐されたロシアの科学者救出を依頼される。

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岩肌に掘られた洞窟住宅がひしめくイタリアの町マテーラ。絶景の中、石畳の道や階段を、車で、バイクで、ボンドが疾走する。敵に追い詰められるとロープをつかみ、橋の上から空を飛ぶ。さらに集団相手の銃撃戦。生身の格闘。降り注ぐ手投げ弾……。いつも通りの豪快なアクションに次ぐアクション。特に冒頭のマテーラでの攻防はすごかった。車や腕時計に仕掛けられた秘密兵器の数々に、お決まりのセリフも登場する。「007」に期待される要素はきちんと用意されている。だが作品の真の魅力は、これまでになく人間としてのボンドに迫っていることだろう。

「人間」ボンドを描く 深いドラマ性

1962年以来、ショーン・コネリーをはじめ様々な役者が演じてきたボンドは、洗練されているがマッチョで、現実離れしたヒーローだった。スパイの代名詞となりスパイ映画というジャンルを作り上げたが、ボンドガールと呼ばれる女性たちとすぐにベッドに入るボンド像は、次第に時代に合わなくなる。

クレイグ版5部作は、そんなボンド像を引き継ぎつつ、スパイ映画というジャンルを超えてより深いドラマ性を加える試みだった。それは成功したといえるだろう。世界を救う戦いの中に、ボンドの過去や、愛する者に対する思いがしっかりと息づいて、胸を打つドラマとなった。

個人的にはパロディーに徹した10作目「私を愛したスパイ」がシリーズで一番好きだが、この最新作は別格だ。スパイのアイコンだった「ボンド」が、この作品で初めて、一人の「人間」として語られる存在となったのだから。(読売新聞編集委員 小梶勝男)

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(英、米) キャリー・ジョージ・フクナガ監督。2時間44分。TOHOシネマズ日比谷など。公開中。

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