甘じょっぱくて脂っぽい…罪悪感を霧散させる酢豚の酸味

甘じょっぱい味、というものが今、流行はやっているようです。先日もとあるお店で、ドーナツサンドイッチというものを発見した私。ドーナツに、ローストポークや野菜が挟まっているのであり、「こんなものを食べていいのだろうか」 と思いつつもその魅力にあらがいきれずに、購入してしまいました。ドーナツの甘さ、ローストポークのしょっぱさと香ばしさと脂肪分、そしてマスタードのちょっとした酸味。‥‥等々が融合し、しばしうっとりします。

またある時は、ネットで見た「みたらし団子の豚バラ巻き」に魅了されました。みたらし団子に細長い豚バラ肉をくるくると巻きつけ、こんがりと焼いて食べるというわけです。これまたあらがいきれなくなった私は、早速作ってみることに。

コロナ時代となって以降、様々な調理機器を導入している我が家には、自宅で焼肉を焼いても煙が少ないロースターがあります。このロースターを使用しておうち焼き鳥をした時に、「みたらし団子の豚バラ巻き」にもトライしてみました。

作り方は、いたって簡単。市販のみたらし団子に肉を巻くだけなのですが、脂肪分たっぷりのバラ肉を巻く時の「こんなことをしていいのか」というちょっとしたしゅん巡さえ乗り越えれば、ものの数秒で完成します。

ロースターでじゅうじゅうと焼くと、脂が次第に落ちて、バラ肉がカリッとしてきました。そろそろいいかな、とかぶりつけば、肉の脂肪分とみたらしの甘じょっぱさが渾然こんぜん一体となり、両者を団子のもっちり感が抱擁。大人のジャンクフードの味わいで、はっきり言っておいしい。

パンケーキのベーコンのせ、アメリカ人も好む味わい

甘じょっぱい味というのは、日本人にとって特に目新しいものではありません。みたらし団子だけでも既に甘じょっぱいわけで、日本人は昔から、しょうゆ+砂糖という組み合わせをでてきたのです。

が、最近の甘じょっぱい味ブームというのは、そこに脂肪分をプラスするところが、特徴なのでしょう。ドーナツサンドイッチにしても、みたらし団子の豚バラ巻きにしても、甘さとしょっぱさ、さらには脂という、罪悪感をもたらすスリートップを全て集結させるという暴挙に出ているのです。これもまた、コロナのストレスが我々にもたらす欲求なのかも。

そういえばこの手の味わいは、そもそもアメリカが得意とするところです。パンケーキにカリカリのベーコンをのせ、そこにたっぷりのバターとメープルシロップ、などという組み合わせは、かの国の人々の好物だという。その昔、初めてこの組み合わせを口にした時に、「肉類にシロップをかけるとはすごい発想だ」と、感動したものでしたっけ。

体の負担を和らげてくれるかのような中華マジック

では中華はどうなのだろうか、と考えてみますと、甘じょっぱいというよりは、甘酸っぱい料理の方が、思い浮かぶのであり、おなじみの酢豚がその代表といえましょう。もちろん酢豚にも塩分は入っていますから、甘じょっぱい+酸味、ということになる。

酢豚においては、現在の甘じょっぱい味ブームなど発生するよりうんと前、そしておそらくはパンケーキのベーコンのせよりも前から、甘さとしょっぱさと脂という三大要素を集結させているところが、私を感動させます。

そこに酸味が加わっているのは、豚肉をさらに揚げるというダブルのアブラ感と甘じょっぱい味の合体という濃厚さを、酸味でマイルドにするためでしょう。酢豚を考案したいにしえの人も、糖分、塩分、脂肪分の三位一体にそこはかとない罪悪感を抱いたのかもしれず、それを抑えるための酢、だったのかもしれません。

酢豚を食べる時、肉をかみ締めた時ににじみ出る脂っぽい汁に一瞬、「ああ、いけない」と思うのです。が、次の瞬間に酸味が感じられると、我々は「いや、大丈夫。この酸味が全てを解決してくれるはず」、と思うことができる。さすが中華マジック、おいしいだけでなく、我々の罪悪感すら霧散させるテクニックを有しているのでした。

考えてみると、私は子供の頃、料理における甘じょっぱい味が苦手でした。すき焼きにしても、肉が甘いという事態を受け入れられず、家ですき焼きを食べる時は一人で別メニューを食べていた。

ところが大人になってみると、甘じょっぱくて脂っぽいという味が、たまらなく好きになっていたではありませんか。味覚の幅が広がったと言うべきか、雑駁ざっぱくになったと言うべきかはわかりませんが、糖・塩・脂が集結してのお祭り騒ぎに身を任せることに、うっとりするようになったのです。

が、しかし。人生のベテランになってくると、次第に糖・塩・脂の祭りに、そうそう身を任せてばかりはいられなくなります。とてもおいしいのだけれど、上等な霜降り肉のすき焼きなどは、大量には食べられない。みたらし団子の豚バラ巻きにしても、2本目を食べたい気持ちは山々だったけれど、1本にしておいた。

今となっては、糖・塩・脂の負担を和らげてくれる(ような気がする)酢豚の酸味が、しみじみとありがたく感じられる私。あの酸味は一種の思いやりなのかもしれず、酢豚に酢を入れてみようと思いついた人に、心の中で手を合わせているのでした。

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酒井順子
酒井 順子(さかい・じゅんこ)
エッセイスト

高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。「負け犬の遠吠え」で講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。2021年に「処女の道程」(新潮社)、「鉄道無常」(KADOKAWA)を出版。

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