映画「MINAMATA―ミナマタ―」 真実を撮る 世界揺るがす

フォトジャーナリズムの世界で大きな足跡を残した米国人写真家、ユージン・スミス(1918~78年)を、ジョニー・デップが演じた。スミスの目を通し、観客は「水俣」を目撃する。

物語は1971年、ニューヨークにいたスミスが、日本企業のCMの仕事で出会った通訳のアイリーン(美波)から水俣病について知らされ、写真の力で世界に事実を伝えてほしいと頼まれたところから始まる。スミスは熊本県水俣市に引っ越し、チッソの工場排水を原因とする公害病に苦しむ人々の日常や抗議活動にレンズを向ける。やがて彼の写真が世界を揺るがす。

アンドリュー・レビタス監督が紡ぐ映像は静かで厳かだ。一見、平和な港町で、被害者たちは懸命に支え合い生き抜こうとする。デップが演じるスミスは気難しいが、心の奥底には他者への愛があふれている。第2次世界大戦中、沖縄で取材して大けがを負ったトラウマを抱えており、酒が手放せない。だが、「瞳の奥にあるものを撮りたい。そこに真実がある」と語るひたむきさは、見ていてはっとさせられる。彼と患者らが次第に心を通わせる姿は、「傷ついた者と痛みを分かち合うとはどういうことか」を教えてくれる。そして、カメラを手にしたスミスが抱える葛藤は、見る者の心を引きつける。

(C)Larry Horricks

56年に水俣病が公式に確認され、65年が過ぎても被害者たちの苦しみは続く。今一度、スミスが示した姿勢を知ることで、社会が水俣病や世界中の公害病とどう向き合うべきか考える意義は大きい。(読売新聞文化部 久保拓)

「MINAMATA―ミナマタ―」(米)1時間55分。TOHOシネマズ日比谷など。公開中。

原案の写真集新版

ユージン・スミスは1971年から約3年、水俣に暮らし、当時の妻アイリーン・美緒子・スミスと水俣病を取材。本作の原案となった写真集「MINAMATA」を出版した。フォトジャーナリズム全盛期が過ぎ去ろうとする中、彼は水俣で世界の人々の心に焼き付く1枚を撮った。

映画の物語の軸は、その1枚に至るまでの彼のもだえだ。印象的なせりふの一つを國村隼演じる原因企業社長が口にする。この公害は「ppm」つまり100万分の1単位の招かれざる異物の話として“無視”を正当化する。翻って主人公は、数十億分の1の命の重さを自分の熱を加えて現像した写真で証明していく。

ジョニー・デップと美波が演じる、時にほほえましい共闘。真田広之や加瀬亮、國村ら日本の俳優が挑む写真の絵解きにとどまらぬ演技。彼らの体を入り口にさらに見つめるべきことがあると思わせる奥行きがある。長らく絶版だった原案写真集の新版も出た。ぜひ両方凝視したい。(読売新聞文化部 恩田泰子)

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