コロナ後に囲みたい「グランド中華」の円卓にみる日本的発想とは

私は、丸いテーブルが苦手です。丸いテーブルというのは、角がない分、物があまり載らないもの。パリっぽいカフェではしばしば、小さな丸テーブルが使用されていますが、グラスや皿が少し載るとすぐに密状態になってしまい、

「角がほしい!」

と言いたくなるのです。

少し大きめであっても、丸テーブルというのは、どうも落ち着きません。一人一人の陣地が明確になっていないので、つい他人の飲食物に手を伸ばしてしまいそうに。ケチくさい性質ではありますが、「あなたの陣地は、ここ。食べていいのは、これ」とはっきりわかる方が、私は落ち着くのでしょう。

そんなわけで四角いテーブルが好きな私ではありますが、しかしこと中華料理のお店で丸いテーブルに遭遇した時は、楽しい気持ちになるのでした。そう、料理がくるくる回る構造になっている、あれです。

実は日本人の考案だった

昨今のしゃれた中華料理店で、回るテーブルを置いている店は皆無です。あのテーブルが設置されているのは、宴会が得意な昔ながらのグランド中華。たまにその手の店に行く機会があると、懐かしい中華感が盛り上がってくるものです。

しかしあの回る円卓を開発したのは、実は日本人なのだそう。昭和初期、雅叙園(現・ホテル雅叙園東京)の創業者が、宴席において気兼ねなく料理を取り分けられるようにと、回るテーブルを考案すると好評だったことから、日本全国のみならず、中国にまで伝播でんぱしていったのです。

世界初の回る円卓は修復されて、今も雅叙園の中華料理レストランで使用されているのだそう。ホームページで見てみると、それはとても豪奢ごうしゃな、螺鈿らでん張りのテーブルなのでした。

雅叙園の円卓は6人がけほどの大きさでしたが、おそらくその後、回るテーブルが国内外に広まっていくにつれ、どんどん大きくなっていったものと思われます。お店によっては、10人以上で囲むことができる巨大円卓もあるもの。

丸テーブルの良さは、大勢でも一つの話題で会話ができるところにありましょう。四角いテーブルを大人数が囲むとなると、テーブルは正方形ではなく長方形、すなわち細長くなっていくものですが、するとせいぜい自分の周辺の人としか話すことができず、離れた場所の話題には参加することができません。

長方形のテーブルにおいて、一つの話題で盛り上がることができるのは、せいぜい6人までといったところ。8人になると、4:4とか、2:4:2とかに話題が分断され、大勢で集まっている意味が希薄になってくるのです。

そこへいくと丸テーブルは、料理ばかりでなく一つの話題をもシェアすることができるのでした。

「こちら、北京ダックでございます」

などと料理が運ばれてくれば、

「おおーっ!」

と盛り上がって、一体感が生まれるのです。

微妙な心理のなせる技?

丸という形状はしばしば平和のシンボルとなるものですが、中心からの距離が同じという形状が、平等な感覚をもたらすのでしょう。SDGsのカラフルなシンボルマークなどを見ても、私はつい円卓を思い出してしまうのでした。

回る円卓で食事をしていると、この形状を考案したのが日本人だということも、理解できる気がしてきます。それは日本人が平和を愛するからというよりも、「他人に迷惑をかけてはならない」と幼少の頃より叩き込まれているからこその産物なのではないか、と。

宴席などにおいて、少し遠くにあるものが欲しいとき、

「すみません、あのお皿を取ってもらえますか?」

と他人に頼むことを躊躇ちゅうちょし、つい自分で手を伸ばしてしまう人は多いもの。マナー講座などで、

「遠くのものが欲しい時は、自分で手を伸ばすよりも、隣の人に頼む方がずっとスマートなのです」

と言われても、つい「人様の手を煩わせるのは‥‥」と思って自分で手を伸ばしてしまいがちなのが、我々です。雅叙園の創業者は、そんな日本人の微妙な心理を知っていたが故に、他人に頼まずとも遠くのものを手に取ることができるテーブルを考案したのではないか。

そういえば、今や世界中に広がる回転寿司も、日本生まれの「回る」システムです。回転寿司の良さは、ただ安いとか楽しいというだけではありません。回らない寿司店において、自分が食べたいものを職人さんが手の空いているタイミングを見計らって頼むのは、寿司店慣れしていない者に取っては大変な難行です。回転寿司では、自分から声を発さずとも、好きなものを食べることができることも、喜ばれているのではないか。 

回るシステムは、いわば日本のお家芸なのかも。コロナ時代の今、中華の回る円卓を大勢で囲むことができる日がいつ戻ってくるのかはわかりませんが、コロナ明けを祝う宴席は、ぜひ回る丸テーブルで開きたいものだと思います。

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酒井順子
酒井 順子(さかい・じゅんこ)
エッセイスト

高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。「負け犬の遠吠え」で講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。2021年に「処女の道程」(新潮社)、「鉄道無常」(KADOKAWA)を出版。

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