映画「由宇子の天秤」 真実追う取材 揺れる正義

主人公は、瀧内公美が演じるドキュメンタリーディレクター。社会の闇に光をあて、真実を明らかにすることが、彼女の揺るがぬ正義であるはずだった。だが、その信念ゆえに、取り返しのつかない罪を犯す。

心の内にある「正しさ」など、不確かなものにすぎないのか。取材する者とされる者、その家族の「罪と罰」をめぐる物語は、人間の弱さや矛盾を残酷なまでにあぶり出す。今年のベルリン国際映画祭パノラマ部門に出品された野心作だ。

フリーで番組を制作する由宇子(瀧内公美)は、多忙な本業の合間を縫い、父・政志(光石研)が営む小さな学習塾に顔を出すのが日課だ。経営は苦しいが、地元の高校生のよりどころで、由宇子も講師として勉強を教えている。

3年前の女子高生いじめ自殺事件の取材は大詰め。教師との交際をうわさされた生徒が自殺し、報道やSNSでの中傷がエスカレートする中、教師も命を絶った。学校側は責任を否定したままだ。生徒の父や教師の母にインタビューを重ね、放映も間近。だが、政志にある罪を告白される。

由宇子が取材対象者と向き合う時、両者の間には見えない線が引かれている。渦中にある者に対し、取材者が客観性を保ち、時に冷酷にカメラを向けうるのは、線に隔てられた、安全地帯とも言うべき場所に身を置いているからだ。

政志の告白は、由宇子をそこから引きずり出し、渦中へ追いやる。一度は父にもカメラを向けるが、それは事実を問いただすため。彼女の中に新たな「正義」が生まれてしまう。何としても番組を世に出す。塾も守る。正義の重さを量る 天秤てんびん は激しく揺れ、真実を追求してきたはずの手で、父の罪をなかったことにしようとするのだ。

監督の春本雄二郎は、映画などの助監督を経て、2016年製作の「かぞくへ」でデビュー。2作目の本作は、正義の名のもと、他者を糾弾するネット社会の病理に想を得た。劇的な展開を映す手さばきは抑制的で、そっけないほどだ。カメラは由宇子が焦燥を深めていくさまを淡々と追う。冒頭の場面をのぞき、音楽も流さない。

瀧内も、がんじがらめになった由宇子の心象を、押し殺した口調や硬い表情ににじませ、そぎ落とした演技に徹する。

だからだろうか、胸苦しさが手に取るようにわかるのに、どこか突き放して主人公を見つめていることに気づく。自分ならどうするか。重い問いを、ただ反すうする。(読売新聞文化部 山田恵美)

由宇子の天秤(映画工房春組合同会社ほか) 2時間33分。渋谷・ユーロスペースなどで公開中。

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